『あわいゆくころ』を来月出版、陸前高田で表現活動重ねる瀬尾さん

▲ 自らが目にした風景や、聞き取った言葉から得た「つぶやき」をまとめた単著を発刊する瀬尾さん

 東日本大震災を機に気仙に暮らし、陸前高田などで表現活動を重ねてきた画家・作家の瀬尾夏美さん(30)の単著『あわいゆくころ 陸前高田、震災後を生きる』が、来月1日(金)に出版される。平成23~30年にツイッター上で自ら発信した言葉などをまとめた「日記文学」で、出会った人々や変わりゆく風景などを通じて抱いた感情が、繊細な表現でつづられている。瀬尾さんは「これまで目にした風景や、聞かせてもらった言葉は大切なもの。多くの人々の目にふれてもらえれば」と語る。

 

つむいだ言葉 一冊に

 

 瀬尾さんは東京都生まれで、宮城県仙台市在住。平成23年の震災ボランティア活動を契機に、現在映像作家の小森はるかさんと共同制作を始めた。以降、住田町で暮らし、陸前高田市内の写真店に勤務しながら、住民らと交流を深め、復旧・復興事業で日々変化を遂げる被災地を見続けてきた。
 27年に仙台市で一般社団法人NOOK(のおく)を立ち上げて拠点を移した後も、陸前高田市に通いながら表現活動を重ね、全国各地の被災地に出向いての聞き取りも行う。市内では月1回、住民らと語り合う「てつがくカフェ」を開催している。 
 本は、これまで出会った人々の思いをくみ上げながら、震災後の出来事を100年後に誰かが誰かへと語り伝えるように描いた絵物語「みぎわの箱庭」から始まる。出版への思いを込めたエッセーを挟み、これまで残した2万近いツイートの中から1000程度を選んで1年ごとにまとめた「歩行録」、その当時の思いを新たに書き下ろした「あと語り」などで構成する。
 発災から7年間につむいだ言葉をまとめ、住民との思い出や、かつて住宅や店舗があった場所がかさ上げ地となっていく変化を目にした感情が、繊細かつ奥深い言葉でつづられている。
 瀬尾さんは自らを「旅人」と称し、客観的な視点での言葉を残す半面、勤務していた写真店の仮設店舗が復興事業でかさ上げ地になるなど、暮らしていたからこその感情にも向き合った。
 発刊については「震災が起きて、復興に向かうまでの〝間(あわい)の時間〟は、『あのころはたいへんだったな』と圧縮されるだけで、将来語られにくいような気がした。でも、被災地で花畑をつくったり、亡くなった人とどうかかわるかなど、いろいろなことが行われていた。その時生まれたものは、大事なもの。私が書き留めたものを形にして単に『あのころ』だけでまとめられないようにしたかった」と語る。
 自費出版で、クラウドファンディングなどで賛同を得ながら費用を確保した。「聞かせてもらったこと、見ていた風景は、すごく大事なもの。陸前高田をはじめ沿岸の方々が震災で抱えた葛藤は、自然災害や大切な人々を亡くした悲しみなど、誰もがこれから経験するかもしれないことに生かされると思う。それを引き継ぐ役割になれれば」とも話す。
 晶文社発行で、四六判360㌻、税別2000円。各地の書店で予約、取り寄せが可能という。