集英社『ジャンプ+』で連載中、陸前高田出身の漫画家活躍

▲ 地元の書店でもイチオシの『ロッキンユー!!!』

 陸前高田市高田町出身の漫画家・石川香織さん(28)が、出版社最大手・集英社のWEB媒体で作品を連載中だ。ロックに心揺さぶられた高校生たちが、青春をバンド活動にささげていく熱いストーリーが、登場人物たちと同世代の若者やバンドマンはもとより、幅広い読者から支持を集めている。石川さんは現在、地元を離れて生活しているが、作中に陸前高田の地名を登場させるなど東日本大震災で傷ついた古里への思いも作品に託し、作家としてさらなる飛躍を目指す。

 

バンドに傾注する10代描く
石川香織さんの『ロッキンユー!!!』

コミックは2巻まで既巻


 石川さんは高田高校を卒業後、岩手大学に進学。在学中の平成24年から出版社への漫画投稿をはじめ、29年7月、新人作品が集まる集英社の『ジャンプルーキー!』でシルバールーキー賞を獲得し、デビューを果たした。
 この時の読み切り作品が評判となり、昨年4月からオンラインで読める同社のWEB漫画誌『少年ジャンプ+(プラス)』で『ロッキンユー!!!』の連載をスタート。単行本は2巻まで発売中だ。
 『ロッキンユー!!!』は、何事も長続きしない少年・真神たかしが高校入学を機にロックを知り、徐々に仲間を得て、音楽とバンドに熱くのめり込んでいく姿を描く。
 石川さんは幼いころから漫画を描くのが好きで、同級生らに自身の4コマ作品などを見せていた。「面白くなかったりすると、友達から厳しい指摘を受けてきた」と笑う。
 さらに、一人っ子の石川さんは家で絵を描くときによく音楽を聴いていたといい、ネットで知った曲やバンドを〝芋づる式〟に発掘。やがて作中にも大きな存在として登場するナンバーガールやザ・ピロウズといった、「オルタナティブ(尖鋭的な)ロック」と呼ばれるバンドに傾倒していった。
 デビュー前は別ジャンルの漫画を描いており、別の雑誌で小さい賞を受けることはあったが、なかなかデビューに結びつかなかった石川さん。「自分が大好きなことを一生懸命描くからこそ面白いものになるのでは」と考え、生まれたのが、今連載のきっかけになった読み切り『ロッキンオン!!!』だった。
 「音楽に関する漫画はいろいろあるけど、日本のロックやオルタナを描いたものはないな」と考え、「〝自給自足〟というか、自分がまずそういう漫画を読んでみたい!と思ったところから始まった」という石川さん自身の熱量が、作品にみなぎる〝熱さ〟にも直結。大学時代、軽音サークルに所属していたこともあって、若きバンドマンらの雰囲気や会話表現は実にリアルだ。
 好きな音楽について語るときについ行き過ぎてしまうキャラクターの性格や、好きなものをけなされたときのくやしさなど、内面描写も秀逸。主人公のたかしはそれまでロックを知らなかった人物。少しずつ、聴く楽しさ、演奏する楽しさを知っていく過程に、読者は感情移入する。
 地元出身作家の石川さんを応援しようと、高田町の伊東文具店では特設コーナーを開設。サイン色紙も店内に飾られている。
 コミック担当の山崎名月さん(31)によると、同店では異例の売れ行きといい、「大人になると忘れてしまうまっすぐさにあふれている。ロックファンだけでなく、好きなものがある人ならだれでも共感できるはず」とPRする。
 作品の舞台は盛岡や仙台といった地方都市をイメージした架空のまちだが、主人公らが通う「陸前高校」をはじめ、高田、竹駒、米崎、広田といった地名、「がんばっぺしおらほの店っこ」といった言葉が出てくるのは、震災で傷ついたまちを思い、「作品を通じて自分にできることがあったら」と考えたからだと語る石川さん。地元の人が読んだとき「あっ」と喜んでくれたらうれしいという。
 物語はいま、主人公たちのバンドが〝軽音の甲子園〟の頂点を目指すという大きな盛り上がりを見せているところ。石川さんは「この漫画をきっかけに、音楽にも興味を持って触れてらもらえれば」と話し、執筆に全力を注ぐ。