2019陸前高田市長選/終盤の情勢、戸羽氏先行 紺野氏が猛追
平成31年2月1日付 1面
任期満了に伴う陸前高田市長選は告示から5日が経過し、届け出順に、3選を目指す現職の戸羽太氏(54)=高田町・無所属=と、新人で元県企画理事の紺野由夫氏(59)=横田町・同=が3日(日)の投票日に向け激戦を繰り広げている。東日本大震災からの復旧・復興事業に携わってきた2期8年の実績と知名度、これまでの支持基盤を生かしながら全域に浸透する戸羽氏が先行するものの、新庁舎の建設規模見直しや議会とのあり方、市政刷新を訴える紺野氏が現職批判票を結集し、戸羽氏の支持層も切り崩しながら猛追。投票先を決めかねている浮動層に対し、両陣営が「継続」と「刷新」それぞれのメリットをいかに浸透させられるかが最終盤のカギとなりそうだ。
8年の実績強みに浸透…戸羽氏、批判票大きく取り込む…紺野氏
東海新報社は今選挙で、有権者を対象とした投票行動調査(1月12日~25日)と、期日前投票での出口調査(同28日~30日)を実施。この結果と、前哨戦からの取材を加味して終盤の情勢を分析した。
戸羽氏は、現職としての実績や知名度を生かして市内各地域に広く浸透。10~30代の若者や、女性からも厚い支持を集める。平成23年の市長初当選を支えた層からの支援体制は盤石。市議は8人が支持し、黄川田徹元衆議院議員も選挙戦を支える。一方、27年の前回選で対立候補に投じられた票の取り込みは限定的で、4年前に戸羽氏に投票した有権者が紺野氏に流出する動きもみられる。
紺野氏は約40年間地元を離れていたものの、出馬表明後は繰り返し市内を歩き、徐々に知名度が向上。前哨戦で築いた組織力をフル稼働させて集会などへの動員を図る。7階建て新庁舎の規模見直しなどを挙げながら、中高年を中心に現職批判票を強力に集める。市議は2人が支持。一方、若年層からの認知は低い。
地区別にみると、戸羽氏は有権者が最も多い地元・高田町で一歩リード。同町に次ぐ票田である広田町でも堅調に戦う。紺野氏は出身の横田町で戸羽氏に大きく水をあけ、同町に隣接する竹駒町でも組織力を生かして支持を伸ばす。矢作町はほぼ互角。戸羽氏を応援する市議3人がいる半面、紺野氏が連動して戦う市議補選候補者の出身地であることから、現職支持層の切り崩しも活発だ。
紺野氏後援会の米谷春夫会長の地元・気仙町では同氏が広く支援を取り付ける。ただ、同町には戸羽氏を応援する市議もおり、同町出身の県議・佐々木茂光氏がどちらを支持するか態度を表明していないことから、同町での選勢は流動的な要素も多い。
小友町と米崎町では両氏が拮抗。戸羽氏は旧来からの支持者のつながりを生かして支持拡大を図り、紺野氏は組織力によって新たな掘り起こしを進めている。
戸羽氏は先行ムードからの緩みに警戒し、告示後は各地で個人演説会を積極的に展開。陣営は支持固めに一定の手ごたえを得ている半面、「今回は本当に厳しい戦い。最後まで気が抜けない」とし、大震災以降の実績と継続による市政発展を強調して増票を目指す。
紺野氏は緻密に遊説計画を練って市内全域を歩き、「市政を『変える勇気』をもって」と訴え、この4年間の行財政運営に不満を持つ層などの取り込みに努める。決起大会や第一声、期日前投票でも戸羽氏を上回る動員力を見せ、支持の勢いが一気に加速する可能性もある中、陣営では「まだまだ追う立場」と引き締めを図る。
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今回の市長選は昭和30年の市制施行から17回目。平成23年の大震災後は2回目で、選挙権年齢が18歳に引き下げられてからは初めて。一騎打ちは11年の12回以降6回連続となる。
東日本大震災発生前に実施された平成23年の前々回戦では投票率が80%を超えていたが、再選を目指して出馬した戸羽氏と元医療法人職員の無所属新人による一騎打ちとなった27年の前回選では、72・19%と過去最低を記録。この時の当日有権者数は1万7164人で、戸羽氏が相手候補を6282票上回る9275票を獲得して当選した。
1月26日時点の有権者数は1万6689人で、4年前と比べて約3%減少している。今回の有権者数に前回投票率を割り当てると、約1万2000票。投票率が前回並となった場合、当選には6000を超える得票が必要となる。
地区別に有権者数をみると、前回選から100人以上増加しているのは、高田町(244人増)。一方、100人以上減っているのは広田町(220人減)と矢作町(224人減)、竹駒町(171人減)、横田町(240人減)で、市内陸部に建設された仮設住宅からの退去と、高田町での住宅再建などによって居住先が変わったのが大きく影響している。
市選管によると、期日前投票を行った有権者は1月30日時点で829人。前回選より多いペースで推移しているという。被災者の生活が落ち着きつつあることや、3日の投票日当日はこの時期としては比較的暖かくなる予報もあることから、投票率は前回を上回るのではないかとの見方が強い。
告示前の投票行動調査では、どの候補に投票するか「未定」とする有権者も目立った。選挙戦最終盤に向け、自身の公約、主張や市の将来展望をどれだけ浮動層に響かせられるかが勝敗を左右するポイントとなりそうだ。