来訪者の新しい「足」に、NPO法人SETがコミュニティサイクル実証実験/陸前高田

▲ SETが広田町内で自転車を使った移動について実証実験

 陸前高田市広田町を拠点に活動するNPO法人SET(三井俊介代表理事)は1月から、市の協力を受け町内で「コミュニティサイクル」の実証実験を行っている。同町に滞在する大学生たちに自転車を利用してもらい、町内を回遊する際のメリット、利便性などについて調査。町民と来訪者がふれあうきっかけづくりや、移動の自由度が増すことでさまざまな「発見」に結びついているという効果が見えてきている。いずれは利用を地域住民にも広げることも考えており、同法人は「自転車を手始めとして、互いに『移動』を助け合えるような新しい仕組みづくりにもつなげたい」としている。

 

 コミュニティサイクルは一般的に、町内などに複数設置された「ステーション(またはポート)」のどこからでも自転車を貸出・返却できるシステム。SETは同法人事務所や地区公民館など3カ所を「ステーション」として計20台の中古自転車を配備し、1月から3カ月間の日程で実証実験を行っている。
 利用しているのは、主に首都圏などの学生たち。同法人は平成26年から町内で滞在型研修「チェンジメーカー・スタディ・プログラム」を実施し、年間1500人ほどの大学生を地区に呼び込んでいるが、参加者が町内を歩いたり住民から話を聞いて広田の魅力を発掘するにあたり、移動手段が限られていることが課題だったという。
 一方、同市では、運転免許や車を持たない高齢者や障害者らが通院、買い物などに不便を感じていること、観光客が中心市街地から離れた地域を巡ろうとする際、レンタカーなどを利用しなければならないことが問題として指摘されており、地域と連携した新しい地域公共交通のあり方を模索している。
 SETはこうした背景も踏まえ、〝広田町型モビリティ〟の構築に挑戦。市は自転車の貸し出しや中古自転車の修理費用といった面で実験をサポートする。
 実験で自転車を利用したのは、今月1日までに56人。延べ150日分ほどのアンケートを見ると、多くの学生が「ほかの交通手段ではない発見が多くあった」と回答した。また、車での送迎時間を気にしなくてよいため、地区での滞在がのびたり、より多くの場所に立ち寄って人と話をしているといった効果が浮かび上がっているという。
 同法人学生スタッフで、4月から同町に移住予定の木村聡さん(25)=慶應義塾大学大学院=は、「自動車だと『目的地に着くこと』が目的になってしまうが、自転車なら『こんな道があったのか』と気づいたり、出会う人とあいさつを交わしたりできる。自分もランニングをしていたときに地元の方から声をかけられ、ごはんをごちそうになったことがあった。これは車を使っていたらできなかった経験。ゆっくり移動することでもっと見えてくるものがあるのでは」と語る。
 さらに、学生や観光客だけでなく地域の人にシステムを活用してもらう将来も見据え、「車の交通量が減れば路上でのコミュニケーションが生まれやすくなるし、いつも自転車に乗っている人を見かけなければ『あの人、どうしたんだろう』と気にかける。コミュニティー力を強める意味でも有用だと思う」という。
 コミュニティサイクルは来年度の事業化を目指し、5月からもさらなる実証実験を重ねたいとする。また、自転車をきっかけに町内で「顔の見える付き合い」を増やし結束を高めることで、相乗りなどの「支え合い交通」の構築につなげることも視野に入れる。
 木村さんは「行政サービスで成り立っていたものをコミュニティーの力でやっていくことが、一層求められている。町への愛着を高め、その町の地形やコミュニティーの特性に合った移動手段を生み出したい。まずは広田町モデルをつくり、それが市内の別の地域でも、その地域に合った形にカスタマイズされていけば」と意欲を燃やしている。