仮設住宅解消後も寄り添いを、被災者支援のこれから/大船渡市

▲ 猪川町の長洞応急仮設住宅団地。多くの玄関前には「空室」の張り紙が掲げられている

 東日本大震災後、大船渡市内の市有地や民有地の37カ所に1801戸が整備された応急仮設住宅。大津波で家を失った被災者らが、新たな住まいに移るまでの生活を支えてきた。一方で、この8年間で住まいの再建が進み、今年2月末現在で被災者の入居戸数は2団地16戸にまで減った。いずれの世帯も今月末までに退去し、市内の仮設住宅はすべて解消される見込み。これに合わせ、市は平成27年から被災者支援に取り組んできた応急仮設住宅支援協議会を解散することを決めた。同協議会の取り組みを通じ、被災者支援のこれまでとこれからを探りたい。

 

市応急仮設住宅支援協議会の設立総会(27年3月)

 震災では、市内の5592世帯が被災。県は市有地、民有地の計37カ所にプレハブ型の応急仮設住宅を整備した。
 着工第1号は大船渡町・地ノ森団地の72戸。発災から2週間後の23年3月15日に工事着手し、4月下旬には入居も始まった。同団地の着工から4カ月後の7月末までに、計画数の37団地1801戸が完成した。
 同年9月には、北上市の民間企業が大船渡市内での仮設住宅支援事業をスタート。各団地に支援員らを配置し、被災者の支援、見守り活動などを進めてきた。
 その一方、24年度には市と県が災害公営住宅の整備に着手。新築分は大船渡町・田中東団地(木造2階建て3棟、12戸)を皮切りに完成し、仮設住宅から移る世帯も増えていった。
 災害公営住宅への転居をはじめ、自力再建や防災集団移転促進事業(防集)による高台移転も進み、仮設住宅の入居世帯数は少しずつ減少。26年2月には同町・山馬越団地(88戸)で初めて一部が解体となり、その後、三陸町吉浜の吉浜団地5戸が初めて全面撤去となった。
 同年11月、市は学校校庭の早期開放や民有地の返還に向け、応急仮設住宅の撤去・集約化計画を公表。応急仮設住宅支援協議会が設立されたのは、その翌年のことだった。


応急仮設住宅支援協の役割

仮設住宅のお別れ会では、住民と支援員らが思い出を振り返る場面も(28年5月、末崎町)

 発災から4年がたち、市が仮設住宅の撤去・集約化計画を示した一方、仮設入居者の中には、生活困窮や健康面などに課題を抱え、住宅再建のめどを立てられないケースも目立ち始めていた。
 同協議会は、こうした人々に対する見守りや相談体制の充実に向け、市(長寿社会、健康推進、地域福祉、住宅公園)、市社会福祉協議会、公益財団法人・共生地域創造財団の3者が連携して誕生。長洞団地内に拠点を構え、支援員59人による活動をスタートさせた。
 これまで行ってきた支援員による見守り活動は継続。仮設住宅の入居者に毎日朝、昼、夕と声をかけ、悩みや心配ごとがないか耳を傾けた。体調不良や住宅設備の故障、生活への問題が生じていれば、市や社協、業者などの関係機関につないできた。
 支援員の一人は、「活動を続け、入居者の方々と打ち解けると次第に話をしてもらえるようになった。相談をしてもらえることがうれしくも感じた」と、活動を振り返る。
 高齢者世帯に対しては、ゴミ出しなどの生活支援も。談話室や集会所の管理も担い、支援員が在室の際はいつもカーテンを開けておき、入居者らが出入りしやすい環境づくりを心がけた。
 このほか、物資や市の広報等の配布、仮設住宅への訪問を希望する団体の仲介、住民同士のお茶っこ会や自治会イベントの支援などを展開。支援員同士が定期的に集まって情報交換も図り、自治会や入居者らのサポート充実を図ってきた。
 協議会設立から半年後の9月には、「コミュニティーサポート部門」を立ち上げ、災害公営住宅の支援にも着手。28年9月には、市内25団地801戸(市営22団地539戸、県営3団地262戸)がすべて完成し、仮設住宅から転居する被災者も増えた。
 同部門では、仮設住宅を卒業し、新たな環境のもとで生活する被災者らの見守りとつながりづくりを支援。団地会や自治会の設立に向け、サポートなども進めた。

災害公営住宅では新たなコミュニティーづくりに向けて自治会設立総会を開催(29年3月、盛町)

 市は28年5月、防集や土地区画整理事業などでの住宅再建、市外に整備中の災害公営住宅に入居を予定するといった所定の要件に該当する世帯にのみ、仮設住宅の入居を認める「特定延長」を、30年度から導入する方針を公表。28年7月には入居者向けの説明会を開催し、住宅再建意向調査も始めた。
 こうした動きを受け、協議会では新たに「仮設支援パーソナルサポート部門」を設置。次の住まいへ移る際の課題を把握し、構成団体間で共有しながら解決に努めた。同部門は30年3月、特定延長該当者を除くおおむねの対象者が自立できたとして終了した。
 同年4月からは、予定通り特定延長がスタート。同月末には、仮設住宅における被災者の入居戸数が6団地74戸にまで減少していた。
 協議会の支援員体制は、仮設住宅4人、災害公営住宅8人、事務局2人の計14人に。仮設住宅、災害公営住宅それぞれの支援を続けてきた。
 秋には、仮設住宅入居者が災害公営住宅への入居を希望する可能性が低くなったとして、市が市営の災害公営住宅を対象に一般の入居を認めた。入居者数は、市営が500戸(今年2月末現在)、県営が234戸(昨年12月末現在)。
 そして、今年2月末現在で、被災者が入居する仮設住宅は地ノ森5戸、長洞11戸の計16戸となった。
 市は仮設住宅において自宅再建による転居のめどがたち、31年度の特定延長対象であってもみなし仮設住宅への転居を了承するなど、年度内にすべての世帯が退去する見込みになったと発表。仮設住宅の解消に向けた大方の見込みがついたとして、3月末をもって協議会を解散することとした。
 協議会の代表を務める市社協の金野敏夫事務局長は、「構成団体等の連携により、入居者個々の生活課題対応、入居者間、団地内や地域とのコミュニティー醸成等で一定の成果があったと思っている」と語った。


解散後も各種事業は継続へ

 協議会は解散となるものの、心のケアやコミュニティー形成、高齢者を中心とした見守りなど、今後も求められる被災者支援策は数多い。金野代表も「仮設住宅がなくなっても、個々の生活課題が解決するわけでない。新しい居住地でのコミュニティー形成も難しいものがある」と指摘する。
 このため、市はこれまで協議会が担ってきた支援活動について、構成する市、社協、共生地域創造財団で連携を強めながら、すべて継続する方針を示している。
 このうち、災害公営住宅のコミュニティー支援は、市住宅公園課を中心に実施。31年度は復興支援員制度を利用し、5人程度のコミュニティサポーターを委嘱して活動を行う。
 同課の金野久志課長は「コミュニティーを支える部門として活動を続け、持続的に自立した団地会運営を目指していきたい」と話す。

グリーフケアセミナーなどの心のケアをテーマにした学びの場も継続する(30年11月)

 生活困窮者の支援は、市地域福祉課や社協、同財団で展開。生活困窮者自立支援制度により、被災の有無にかかわらず、該当者それぞれが抱える課題の解決に向けた支援を講じていく。市の委託事業で社協が行う「生活困窮者自立相談支援事業」「生活困窮者就労準備支援事業」も続ける。
 高齢者支援は、市長寿社会課、社協、同財団が、家族や地元の民生委員、各地区の地域助け合い協議会などと連携をしながら実施。閉じこもりや孤立による心身の機能低下、認知症などのリスクにつながらないよう、高齢者のみ世帯の訪問と状況把握、個々のケースに応じた支援、介護予防などを図っていく。
 健康見守りは、市健康推進課や地域福祉課などが担う。保健師、看護師、栄養士らが定期的に家庭を訪問し、被災者の健康維持、増進を図る「健康見守り訪問」、災害公営住宅入居者や在宅被災者からうつ傾向の有無を調査し、要訪問者の把握、必要に応じた受診勧奨、見守りを行う「うつスクリーニング」を継続する。
 上智大学グリーフケア研究所に委託し、被災者や支援者にグリーフ(深い悲しみ、悲嘆の意)の正しい知識を身に付けてもらう「グリーフケアセミナー」、自殺対策の一環として命の大切さなどを学ぶ「こころのフォーラム」も引き続き開催していく。
 市生活福祉部の後藤俊一部長は「協議会が解散したから終わりではない。健康や介護など複合した課題を抱える方への手厚いケアが必要。住民の方々に寄り添う形で、なお一層丁寧に対応していきたい」との考えを示す。

 構成団体の社協、同財団も、それぞれがこれまで行ってきた被災者支援活動を継続していく。
 社協はこれまで、仮設住宅、災害公営住宅、防集の移転先などで生活支援相談員(陽だまりサポーター)による訪問活動を展開。被災者以外の支援を要する住民の見守りも含め、年間約1000世帯を訪問している。
 昨年からは、世帯アセスメント表による調査を実施。日常生活や心身の健康状態、生計の維持などの各項目をチェックし、支援度(訪問回数)を「重点(月2回)」「定期的(月1回)」「不定期(ときどき)」の3段階で判断。訪問活動の充実に役立てている。
 また、災害公営住宅や再建移住地域の公民館等を会場としたサロン活動、各自治会やボランティアなどが主催するイベントも支援。地区版の助け合い協議会による支え合いマップ作りにも携わるなど、地域課題のあぶり出し、解決に向けた活動にも携わってきた。社協では、これらの活動を継続させていくとしている。
 同財団は震災後、市内の在宅被災者を対象に調査、支援を行う「大船渡みらいサポート事業」をはじめ、社会的孤立や生活困窮といった課題を抱える世帯の見守りなどを実施。協議会では、さまざまな事情を抱え、仮設住宅から次の住まいへ転居するのが困難な入居者らに対し、経過確認や手続き上のサポートなどに努めてきた。
 本年度は、みらいサポート事業で調査した世帯を対象に再調査を実施。新たな課題が生じ、必要な場合は市などの関係機関につなぐなどの取り組みを進めている。
 「住宅再建、災害公営住宅に移ったから終わりではない。震災で心に傷を負い、さらに健康問題や高齢化などの複合的な課題を抱えている方もいる。継続的な訪問、経過確認が必要」と同財団。これまで続けてきた〝伴走型支援〟を持続しながら、活動していく考えだ。
 金野代表は「各団体が必要な個別支援を継続し、連携を要するケースには互いに声を掛け合い、協働して対応するよう、構成団体間で確認できている。大事なことは関係機関や団体等の連携協働であり、地域における支え合い体制が進展することだと思う」と話している。