未利用地解消、どう取り組む/陸前高田市 高田・今泉両地区のかさ上げ部 

▲ 陸前高田市の中心部。高田・今泉両地区での土地区画整理事業は平成32年度の完了を目指し徐々に進展しているものの、広大な面積の土地の利用予定がないことが大きな課題となっている

約7割の「空き地」活用対策は

 

 東日本大震災の発生から8年を迎えた中、陸前高田市では今も、土地区画整理事業による高田・今泉両地区での宅地整備が続く。今月末までに、高田地区では計画された高台・かさ上げ部986宅地のうち850宅地、今泉地区では同様の478宅地のうち260宅地が引き渡される計画となっており、引き渡し済みの高台宅地では住宅再建が進む。一方、かさ上げ部においては、利用予定がある土地が全体の2割程度しかなく、空き地の活用対策が同市最大の課題となっている。市は本年度、地権者と土地利用希望者とをマッチングさせる制度を創設。民間力によるまちの魅力創出にも期待を寄せながら、制度内容や取り組みの充実を図るとしている。

 

 

マッチングの制度を創設

 

 陸前高田市が両地区の地権者を対象に昨秋に行った意向調査によると、高田地区はかさ上げ部35・1㌶(未回答分5・7㌶)のうち、「利用中または利用予定がある」土地が6・8㌶、今泉地区はかさ上げ部18・7㌶(同2・3㌶)のうち、「利用予定あり」は3・5㌶にとどまっており、いずれもほぼ7割の土地で利用の見通しが立っていない。
 同時に、調査では「土地を売りたい、貸したい」と答えた地権者の9割が、「土地の情報を公開し、利用したいという人とマッチングしてほしい」という意向を持っていることも分かった。
 これを受け、市と陸前高田商工会(伊東孝会長)、UR都市機構市は昨年、市土地利活用促進会議(会長・戸羽太陸前高田市長)を発足。復興庁と国土交通省、県などがオブザーバーとして参加し、取り組みの方向性などを検討している。 市は今年1月に「土地利活用促進バンク制度」を立ち上げ、賃貸や売買といった地権者の意向を色分けで示した「可視化マップ」の公開を市ホームページで始めた。マップはエリアごとに選んで表示でき、「売りたいまたは貸したい」を緑、「売りたい」を青、「貸したい」をオレンジに色分け。造成工事が終わった宅地と現在造成中の宅地の面積、台帳・宅地整備図などを示す。
 マップの運用開始直後から市への問い合わせが複数あり、すでに1件の売買契約が成立したという。
 31年度には、市が出資して「まち会社」の設立を計画。可視化マップや優遇制度、重点施策などについて記した「PRシート」作成などの広報宣伝、事業者へのヒアリング、営業活動などを担う。また、地権者と事業者、テナント施設が一堂に会する場としてのマッチングイベントの開催、まちの魅力づくりとその発信にも取り組むとしている。

可視化マップの一例。市は土地所有者からの物件登録を受け付け、その土地と賃貸・売買の意向についてホームページで公開。 利用希望者からの申し込みや土地所有者への連絡といった調整役を市が行い、当事者同士の交渉に結びつける──という流れになる

 


地域の魅力づくりがPRに重要

かさ上げ部の宅地引き渡し会。今後どのように利用するか「様子見」という地権者も多い

 昨年12月に行われた同会議では、商工会の代表が事業者の視点から「出店を考える人にとって大事なのは5年後、10年後の周辺環境。そこに店を出してビジネスとして成り立つかというところを見る」と指摘する場面があった。
 陸前高田市での事業を検討中という気仙沼市在住の男性も、今年2月に高田町で行われた宅地引き渡し会の際、「この土地にアパートか貸店舗を建てようかと思っている。幹線沿いなのはいいが、今にぎわってる場所から少し遠いかな。まわりにどんなものができていくのかを見極めながら決めたい」と語った。

 市街地全体の魅力創出と、それらを分かりやすく発信することが重要となる中、まち会社とともに期待がかかるのは、中心市街地の事業者らで構成される高田まちなか会(磐井正篤会長)の活動だ。
 「まちゼミ」の実施などによる誘客、地域の祭事やイベントをともに盛り上げる活動、環境美化、まちなかのPRなどに取り組む同会は昨年11月に発足。新しい市街地に再建、出店した事業所の「横のつながり」をはぐくむことで、まち全体の魅力を〝面〟として打ち出そうとしている。
 三陸沿岸道路の延伸により、地域間の移動時間が短縮される一方、まちを素通りされる「ストロー現象」によって商店街の利用者減少も懸念される。

中心市街地の事業者らで構成される「高田まちなか会」が、まちの魅力づくりに取り組む


 磐井会長(62)は、「三陸道からこのまちに降りてもらい、お金を使ってもらう。そのための唯一の方法は、個々の店がそれぞれ自分たちの魅力を育て、力をつけていくこと。〝大波〟が来ても流されないよう、根っこをしっかりはやしていきたい」とし、事業者同士のモチベーションアップを図る。

 市復興局の熊谷正文局長は、「まちなか会の皆さんには『陸前高田にこういう業種が足りないのでは』といった意見をいただくほか、商店街を活気づけてもらっている」といい、まち会社との連携にも期待する。
 一方、今後の課題については、33年度以降の国からの支援についてまだはっきりしていないことを挙げる。かさ上げ部に新たなにぎわいが生まれ、「陸前高田で何かやってみよう」「やっぱりあそこに家を建てたい」と気持ちが変化する人が出てきたとしても、その時点で国からの支援事業が打ち切られていれば、結局は足踏みせざるを得ない状況になることが考えられるからだ。

 熊谷局長は「まちづくりには時間がかかるということを国に理解いただき、ソフト支援体制については期限を切らず、長いスパンで見てもらう必要がある」と訴える。

高田地区の市街地では地域住民やNPOなどがさまざまなイベントを展開。こうした催しの企業などへのPRも求められる

今泉地区では昨年、かさ上げ部の引き渡しが始まったばかり。8月には伝統行事の「けんか七夕」も開催されたが、新たな地域づくりはこれからだ