災害被災地へ届けよう 復興の軌跡、音に乗せ 「希望のトランペット」 陸前高田(動画、別写真あり)

▲ 5月のよく晴れた空に、トランペットによる祈りの演奏が吸い込まれていった

 災害による犠牲者の鎮魂と、世界の被災地の復興前進を願う野外音楽会「未来へ向けて届けよう!日本そして世界の被災地へ 響け!希望のトランペット」は19日、陸前高田市高田町のアバッセたかたで開かれた。東日本大震災で本県最大の人的・物的被害を受け、この8年間、復旧・復興を目指してきた同市から世界の災害被災地に対し、「時間はかかっても、人は着実に前へ進んでいける」ということを伝えようと企画されたもの。12歳の中学生から74歳のプロに至るまで、自ら志願した全国各地のトランぺッター52人が、復興の〝つち音〟も音楽に乗せて響かせた。

 

プロ・アマ52人が演奏

 

 この演奏会は、陸前高田市を中心に活動する任意団体「チームとも・いき」(西田邦昭代表)が、世界的なトランペット奏者である杉木峯夫さん(74)=東京藝術大学名誉教授、日本トランペット協会理事長=に呼びかけて実現。同市民らで実行委員会を組織し、杉木さんの教え子や、全国各地のトランペット、コルネット奏者、気仙と近郊のアマチュアバンドなどから吹き手を募った。
 この日は市民ら約300人が来場。好天のもと、音楽会は歌劇アイーダの『凱旋行進曲』で開演。犠牲者の魂の安らぎを祈る『アヴェ・マリア』や『アメイジング・グレイス』、震災復興支援ソング『花は咲く』、千昌夫さんの『北国の春』など計10曲を演奏した。
 大震災直後の平成23年5月、杉木さんが実行委員として名を連ね、東京オペラシティでチャリティーコンサートが開かれた際、津波で母と祖父母、叔母、いとこを亡くした当時高校生の佐々木瑠璃さん(高田町出身)が、トランペットで演奏したZARDの代表曲『負けないで』も披露され、来場者が「負けないで もう少し 最後まで 走り抜けて」などとする歌詞を一緒に口ずさんだ。
 最後は、「うれしい時も悲しい時も、誰の心にも響く曲」と杉木さんが紹介し、唱歌『故郷』を演奏。アンコール曲の『フライデー・ナイト・ファンタジー』では、それまで指揮を務めた杉木さんもソロパートを吹き、「52人の思いは、きっと届いたことと思う」と締めくくった。
 西田代表によると、今回の出演者はそれぞれ「少しでも被災地を応援できれば」という人、自身も東日本大震災や平成7年の阪神淡路大震災で被災し、「自分たちがしてもらった支援に報いたい」という人など、持っている思いはさまざまながら、音楽の力を信じ、陸前高田での演奏会にぜひ参加したいと志願した人ばかりという。
 陸前高田市民吹奏楽団に所属する高田町の松本聖実さん(33)は、「被災して楽器も流され、しばらく音楽から離れていたが、市民吹奏楽団への入団をきっかけにまたトランペットを再開した。たくさんのご支援があってここまでくることができた。全国の被災地にもこの演奏が届き、生きる糧となればうれしい」と語った。
 会場には、現在福島県に暮らす佐々木さん(25)の姿もあり、今回は観客の一人として鑑賞。「ちょうど8年前の杉木先生とのご縁が、きょうにつながっているのだと考えるとありがたい。音楽には人を楽しませ、癒やす力があるんだなあと改めて感じることができた」と話していた。