本称寺のモミジが里帰り 宮城県の願勝寺から 接ぎ木で育った苗木植樹へ 陸前高田(別写真あり)

▲ 本称寺に〝里帰り〟したモミジの苗木と佐々木住職

 東日本大震災で被災し、陸前高田市高田町の高台に再建された海詠山・本称寺(佐々木隆道住職)にこのほど、同じ浄土真宗の寺院である宮城県柴田郡村田町の願勝寺(信楽秀道住職)からモミジの苗木が贈られた。震災前に本称寺から〝分家〟されたものを接ぎ木して育てたもので、同寺由来のモミジが9年ぶりに陸前高田の地に〝里帰り〟したことになる。佐々木住職(56)は境内に苗木を植樹することにしており、震災で亡くなった父・廣道さんがそうしていたように、庭木の豊かな寺を少しずつ取り戻したいとしている。

 

先代住職が震災前に〝分家〟

 

 両寺院のつながりは30年以上前にさかのぼる。信楽住職は当時、真宗大谷派東北別院の「駐在教導(教区の教化活動を振興するため、教区に駐在する僧侶)」を務めており、本称寺も何度か訪問。先代の住職だった廣道さんらとの親交が始まった。
 その後、駐在教導を退いて信楽住職が自坊へ戻ることになった際、廣道さんが「これから大変なこともあるだろうが、そんなときは植物でも愛でて、気持ちを落ち着けて」と、寺の境内にあったモミジを分けて贈ったのだという。
 本称寺は震災前、高田町下和野の低地部にあり、大津波で全壊。廣道さんをはじめ、佐々木住職の家族5人が犠牲となった。佐々木住職はプレハブの仮設本堂で震災犠牲者や先祖を供養。門徒らの協力を受けて昨年春、もとの寺があった場所から山側へ約1㌔離れた高台に本堂を再建した。
 モミジの〝嫁ぎ先〟の願勝寺では震災後、本称寺本堂の再建を待って同寺由来のモミジを贈ろうと、接ぎ木によって苗木を育成。先月29日、信楽住職をはじめ門徒らとの研修旅行の一環で陸前高田市を訪れ、念願の〝里帰り〟が実現した。
 「父は植物の世話をするのが好きな人だった」と佐々木住職。廣道さんは陸前高田のキク愛好者らによる「菊花酔香会」の会長も務めていたほどで、秋には門徒との菊の花見会を催す風流人でもあった。いろんな人に苗木も譲っていたらしく、信楽住職からは「カリンの木もいただいた」と聞いたという。
 本称寺総代長の岡田耕吉さん(82)は「昔の本称寺にあった庫裏前の池の近くに、モミジが立っていたと記憶している」と語り、報恩講などの際、本堂に供える「花立て」の作法にも厳しかった廣道さんとの思い出を懐かしく振り返る。
 同寺に長年かかわる岡田さんだが、願勝寺にモミジを譲ったという話は知らなかったといい、「私たちが分からずにいたことを、あちらが何十年も覚えていてくれたうえ、先代住職が亡くなってからもこうしてモミジを〝お返し〟してくれたことがうれしい」と感極まった様子で語った。
 本称寺境内には昨年秋、シダレザクラとソメイヨシノがそれぞれ1本ずつ植樹されるなど、以前の寺にあった木を少しずつ取り戻しつつある。
 今回譲られた苗木には、もともと本称寺にあった種類だけでなく、願勝寺にもある別種のモミジも接いである。二つの寺院をつなぐモミジを「境内のどこかに植えさせてもらい、大切にしたい」と佐々木住職は話し、植樹された樹木がいずれも大きく成長してくれることを願った。