癒やしの音色響かせ 東京の姉妹ユニット 亡き妹への思いも胸に

▲ 最後には茉莉さん㊧、莉紗さん㊨の母・育久子さんも出演し、利用者らを魅了した

 癒やしの音色が被災者の心に響く──。東京を拠点に活動するクラシックユニット「asianTrinity(アジアントリニティ)」の田村茉莉さん・莉紗さん姉妹が6~8日、気仙両市を含む東日本大震災の被災地でコンサートを開いた。かつて3姉妹で活動していたが、平成20年に一番下の茉麻さん(当時21)を交通事故で亡くした。最愛の人を突然失う苦しみや悲しみを知るからこそ、津波で深い悲しみに包まれた東北に継続して通っており、「気持ちを分かち合いたい」と被災者に寄り添い続けている。

 

「被災者に寄り添いたい」 気仙訪問8年目

 

 アジアントリニティは6、7の両日、気仙両市の福祉施設やコミュニティーハウスの計4カ所、8日に宮城県石巻市の2カ所を訪問。
 このうち、陸前高田市小友町の東部デイサービスセンターでは、利用者約20人を前に演奏。ピンクのドレスを着た茉莉さんが電子ピアノ、白いワンピース姿の莉紗さんがバイオリンで、クラシックや童謡、人気ドキュメンタリー番組のテーマ曲など次々と披露。最後は2人の母で、ジャズ歌手の育久子さんも出演した。
 聴衆は、姉妹ならではの息の合った演奏に酔いしれ、終演後は大きな拍手を送った。100歳を超える利用者が「また来る日を楽しみに待ってます」とラブコールを送ると、茉莉さんは「また来年も来ます」と約束した。
 アジアントリニティは平成14年から3姉妹で活動。茉麻さんの大学卒業に合わせ、3人でのCDデビューを決めていたが、直前の20年11月7日、茉麻さんが交通事故で他界。突如、家族は失意の底に沈んだ。
 「音楽活動なんてできない」と、しばらく心を閉ざした。その一方で「こんな自分たちを見て一番悲しむのは妹だ」という思いを募らせ、「三位一体」という意味も込められたグループ名は変えずに、2人での活動開始を決意。その矢先に震災が東北を襲った。
 被災地の死者・行方不明者数は1万8430人。津波襲来の様子をテレビなどで目にし、「どれほどの悲しみに包まれているのだろうか」とショックを受けた。東北は縁もゆかりもなかったが、人ごととは思えず現地での演奏活動を決めた。
 コンサートのため初めて本県入りした日は、平成24年の「11月7日」。茉麻さんの命日とも重なり、育久子さんは「娘が引き合わせたのでしょうか、不思議な気持ちでした」と振り返る。
 それ以降、毎年気仙など訪問を続け、今年で8年目。莉紗さんは「皆さんと話すと自然と涙が出てくる。そうやって気持ちを共有することで、私たちもまた一歩前に進めるような気がするんです」と話す。
 茉莉さんは「遺族は忘れ去られるのが一番つらい。少なくとも10年間は通いたい。そして被災地の現状を東京で伝えることも私たちの役目だと思います」と風化防止も誓う。