「伯父の〝足跡〟 見届けたい」 千葉さん(盛町)が米・アッツ島へ 厚労省の戦没者慰霊事業で
令和元年6月19日付 7面


佐藤基一さん(左上)と佐々木繁さん(右下)を写した写真(千葉さん提供)
厚労省は20日から8日間、太平洋戦争の戦域となり、多数の日本兵が命を落とした米国・アッツ島などで慰霊巡拝を行う。参列する全国の遺族10人の中には、大船渡市盛町に住む千葉サエ子さん(65)=大船渡町下船渡出身=も。昭和18年に同島で亡くなった伯父・佐藤基一さん(享年21)の〝足跡〟を見届けたいとしている。
あすから巡拝
厚労省では戦没者慰霊事業の一環で、旧主要戦域や遺骨収容のできない海上において、戦没者を慰霊するため、昭和51年度から遺族を対象にした慰霊巡拝を実施。本年度は計13回を計画し、戦没者の配偶者や子、きょうだい、孫、おい・めいなどを対象に参加者を募った。
今回の巡拝場所となるアッツ島は、米国・アラスカからロシアへと連なるアリューシャン列島の無人島の一つ。日本が占領後、昭和18年5月にアメリカとの戦闘で敗れ、配備されていた守備隊2600人余りが犠牲となった。
戦没者名簿の中には、当時陸軍兵として出兵した佐藤さんの名前もある。佐藤さんは千葉さんの父・三好さんの兄にあたり、地元の下船渡では造船所に勤めていたという。
幼いころ、祖父母から伯父の話を聞いていた千葉さんは、今年1月に新聞で同事業についての記事を読み、アッツ島を訪れることも知った。
東京都内に住む妹・金野愛子さんから同行の誘いを受けたこともあって、千葉さんは市役所を通じて応募。全国で17人の申し込みがあった中、岩手で唯一の千葉さんと、金野さんが内定者10人に選ばれた。
千葉さんは「市の人から、アッツ島を経由する巡拝は約20年ぶりで、今後、機会があるかわからないという話を聞いた。一度、伯父がいた場所に訪れてみたいという気持ちで応募したが、定員が少数だったので、正直自分が選ばれるとは思っていなかった」と語る。
出発まで1週間となった今月13日、千葉さんは知人から紹介を受け、アッツ島の戦没者の遺族で、同じ町内に住む佐々木拓子さん(70)の家を訪ねた。普段は〝ご近所同士の付き合い〟だったというが、千葉さんが偶然持ち合わせていた佐藤さんの写真に、同島で戦死した佐々木さんの叔父・繁さんも写っていたことが分かり、すぐに打ち解けた。
「こうしたご縁があるものなのかと、とても驚いた」と佐々木さん。「叔父は父・喜一の弟。母の日記には、大切な息子を亡くした祖母のつらい思いがつづられていた。千葉さんとお話してますます、戦争のない世の中になってほしいという思いが募った」とし、アメリカへ行く千葉さんの背中を押す。
千葉さんは「さまざまな偶然が重なり、これまで知らなかった戦争のことも知る機会になった。伯父やその友人たち、相手国の兵隊が、どんな過酷な環境に置かれていたのかを考えると、胸が苦しい」と言葉を詰まらせる。
帰国後は、佐藤さんらが眠る大船渡町内の墓地で旅の報告をするという千葉さん。「見知らぬ土地に行くということで不安はぬぐえないが、妹と一緒に、伯父が生きた場所をこの目で見届けたい。元気で日本に帰り、向こうで見たことを佐々木さんや周囲の方々にも伝えたい」と決意している。
アッツ島へは、20日に成田空港を出発し、米国・シアトルからアラスカのアンカレッジを経由して22日(土)に向かい、島上空で機上遙拝を行う。23日以降は、ダッチハーバーとアンカレッジでの追悼行事に参列し、27日(木)に帰国する予定という。