連携と発展を模索 「がん相談」で意見交換 広田診療所が取り組み報告(別写真あり)

▲ 広田診療所の岩井所長(左奥)と看護師の藤井さん(中央)が「ヒロピス」について報告

 大船渡市大船渡町にある県立大船渡病院(渕向透院長)で17日夜、「岩手緩和ケア・テレカンファレンス」が開かれた。陸前高田市広田町にある市国民健康保険広田診療所(岩井直路所長)が、院内に開設したがん相談窓口の取り組みについて報告し、オンラインによるテレビ会議の形式で県内の基幹病院など11カ所へ配信。各病院の医師や看護師、薬剤師、医療ソーシャルワーカーといった参加者らが、拠点病院と町の相談窓口がどのように連携していくのが望ましいかや、今後の発展の可能性などを探った。

 

12病院つなぎテレビ会議

 

 広田診療所は今年3月から、がんに関するよろず相談窓口「ヒロピス(広田ホスピス)」を毎週木曜日に開設。国立がん研究センター中央病院、静岡がんセンター、宮城県立がんセンターに通算25年勤務した経験を持つ同診療所看護師の藤井縁さんが、がん患者本人や家族からの相談支援にあたり、岩井所長や大船渡病院内のがん相談支援センターなどとも連携しながら、症状や治療に関する疑問、心理的不安などに耳を傾けている。
 一方、緩和ケア・テレカンファレンスは、岩手医科大と中央、二戸、久慈、宮古、中部、胆沢、磐井、千厩、釜石、遠野、大船渡の各県立病院が毎月、県内病院全体の緩和医療のレベルアップを図ることを目的に実施。情報ハイウェイによって12の病院をつなぎ、テレビ画面を通じて学び合う機会としている。
 112回目となった今回は、岩井所長と藤井さんが「小さな町のがん看護ケア相談窓口の取り組み」と題し、開設のきっかけや背景、活動状況、これまでの事例などについて報告。大船渡病院の会場には院内外から約20人が参加した。
 報告によると、開設から5月31日までのおよそ2カ月半で、延べ17件の相談が寄せられ、再発に対する不安や痛み、家族間の協力関係、みとりの準備などに関する相談があったという。
 藤井さんは相談を通じて、患者が「先生には申し訳なくて聞きにくい」「流れるようにうまく話せない」など、医師に尋ねることを遠慮している人が多いと感じたといい、「じっくり話を聞いてもらいたかった」「頑張っていることを知ってほしい」といった声が寄せられたことも紹介。がんに対するネガティブなイメージがまだまだ強いことも指摘し、周知のためにケアマネジャーや訪問看護師を通じた紹介も行っていると説明した。
 そのうえで、藤井さんは「地元出身のスタッフに、自分の言葉で些細な内容も相談できること、緊張感が少ない環境で話すことで落ち込みの軽減や気持ちの整理につなげられている」とし、「患者や家族の〝抱え込み〟に対する支援の選択肢を増やせたのではないか」と窓口開設の意義を語った。
 岩井所長は「1回の面談で元気になるケースがあり、ちょっとしたきっかけが大事なのだと思う。中でも重要なのは〝傾聴〟。気持ちの整理をつけられる場ができるだけでも大きいのではないか」と述べ、「将来的には『ヒロピス・カフェ』をつくり、がんになっても人とつながり、ともに語らえるまちづくりを目指したい」とした。
 このあと、各病院ごとに拠点病院のがん相談支援センターと、町の相談窓口の役割の違いや連携のあり方、考えられる発展の可能性について懇談し、全体で話題を共有。「どういう立場の人が相談にあたるのが望ましいのか」といった質問があったほか、他院は各地域での現状について報告した。
 出席者からは「ケアマネジャーを通じて窓口の存在を広報してもらうのは有効だと感じた」「『知り合いに知られたくない』といった思いから、身近な場所では逆に相談に行きにくいという人も多い。拠点病院内にも、少し離れた場所にも相談窓口があるという意義は大きい」といった感想が聞かれた。
 また、「外出できない人向けに、出向いて相談に乗るという形も考えたい」「がんに特化せず、医療よろず相談所があってもいいかもしれない」など、同診療所の報告をもとにさまざまな可能性が示されていた。