検証/住田町・次期総合計画策定に向けた住民懇

▲ 町幹部職員と住民が向かい合う形で開催された住民懇談会=21日、役場町民ホール

議論の始まりにできるか
行政と住民 さらに意識共有を

 

 住田町は17~21日に、町内各地区を回る住民懇談会を開催した。神田謙一町長が一昨年に就任して以降では初めてで、人口減少や財源確保の厳しさなどに直面する中、住民側に我慢を伴う各種施策の見直しも避けられない見通しを示しながら、持続可能なまちづくりに向けたアイデアを求めた。寄せられた声を次期総合計画に生かすだけでなく、今後は住民が〝縮小社会〟に前向きな希望を見いだせるような議論の広がりが求められる。(佐藤壮)


 懇談会は、町政運営指針となる次期総合計画や人口ビジョン、総合戦略などの策定に向け、住民らと意見を交わそうと企画。1期目の折り返しが近づく神田町政が、どのような姿勢で各種課題に立ち向かうのかや、中長期的な展望が問われる場ともなった。
 神田町長や横澤孝副町長、菊池宏教育長に加え、町各課の課長らが並び、住民と向き合った。議会にも似たような雰囲気の中で、町全般にわたる現状課題が示された。
 各地区の参加者は、20人前後。住民に加え、複数の会場に足を運び、意見交換に耳を傾ける町議もみられた。


 

 初回となった大股地区公民館での懇談会。あいさつで神田町長は、5月からの新元号・令和に合わせて「今まで経験のない、〝例はない〟時代」と語って場をなごませつつも、歯止めがかからない人口減少や財源確保の厳しさを口にし、将来世代に負担や借金を残さない町政運営を強調した。
 引き続き行われた各課からの説明では、厳しい数字が示された。町の5月末における人口は5438人で、年間100~150人程度減り続ける。転入者や、10~40代の女性がとくに少ない。
 人口減少が進む半面、財政状況をみると医療費や障害者の自立支援といった扶助費は増加傾向。また、ケーブルテレビなど情報化に伴う物件費が増加傾向にある。
 さらに、特別養護老人ホームや大船渡消防署住田分署の各建設に伴う借入金返済が本格化。近年は全体で年間6億円以下だった返済金は、しばらくは7億円程度で高止まりが続く見込みも示された。
 バス路線維持や医療充実など住民要望が高い分野では、どうしても財源確保が課題となる。町側は、新たな施設整備には慎重な姿勢を示し、老朽化が進む既存施設のあり方では「今まであったものを、同じように建てるのは難しい」といった説明を添えた。
 今は危機的な状況ではないにせよ、このままでは立ちゆかなくなる──。町側の説明からは、こんなメッセージが透けて見えた。縮小社会が進む中で、住民と思いを共有しながら方策を見いだしたい意向がにじみ出ていた。


 

 懇談会の開催時間は約1時間30分。このうち、町側の説明は1時間で、住民との意見交換は30分の構成。山積する町政課題解決を見据えた深みのある議論となる前に、終了時間を迎える会場が多かった。
 公共交通をはじめ高齢者の移動手段確保、増加する遊休農地の活用、農林業政策、総額10億円超に及ぶ木工2事業体への債権問題…。説明が町政全般に及んだ分、住民からの発言内容は多岐にわたり、総花的なやりとりとなった。
 予算を切り詰め、事業の縮小や統廃合を進める時に、透明性のある現状説明や将来目標をしっかりと示さなければ、不安やあきらめだけが広がる。次期総合計画を策定し、その計画に基づいて施策を進める時に、住民生活で守るべきものや、大切にすべき将来像は何か。計画の根幹を明確化するまでには至らなかった感があった。
 また、住民も、町の幹部職員を前に意見を述べることには慣れていない面もある。この懇談会を始まりとし、今後も住民が思い描くアイデアをくむ機会を積極的に設けていかなければならない。
 懇談会を受け、神田町長は「地区ごとの課題が見え、建設的な意見もあった。総合計画策定・実行に向けては、住民が意見を言いやすい関係づくりが大切であり、時には現状課題を受け入れてもらわなければならない。課題の周知は難しいが、こうした機会を繰り返していくことが大切と考える」と話した。
 市町村合併が進んだ平成の時代に自立を選択し、小さくとも暮らしやすいまちを目指してきた住田町。将来不安や地域課題が押し寄せる中で、前向きな希望につながる議論を生み出せるか、次の対話のあり方が注目される。