2019参院選/横澤氏 激戦制して初当選 野党共闘で幅広く浸透  岩手選挙区

▲ 激戦を制しての初当選を喜ぶ横澤氏(中央)

 令和初の国政選挙となった第25回参議院議員通常選挙(改選124)は21日、全国一斉に投票が行われ、即日開票された。現職と新人の3氏が立候補した岩手選挙区(改選1)は、立憲民主、国民民主、共産、社民の4野党が推薦した無所属の横澤高徳氏(47)=矢巾町=が、自民党公認、公明党推薦の3期目の現職・平野達男氏(65)=北上市=を1万5506票差で破って初当選した。政治団体NHKから国民を守る党の梶谷秀一氏(53)=東京都=は与野党対決に埋没し、得票を伸ばせなかった。選挙区の投票率は56・55%。前回57・78%を1・23ポイント下回った。

 

1万5506票差

自民・平野氏に競り勝つ

 

 参議院の定数は昨年7月の公職選挙法改正により、選挙区が2人増の148人、比例区が4人増の100人となり、今選挙では選挙区74人、比例区50人を改選。選挙区は215人、比例代表は155人が立候補した。
 元号が令和となってから初の国政選挙で、現政権の6年半の政権運営、憲法改正のあり方、10月に予定される消費税率引き上げ、公的年金制度などを争点として、4日の公示から20日まで17日間にわたる舌戦を繰り広げてきた。
 全国に32ある改選数1の選挙区「1人区」では、自民・公明の与党に対し、野党が候補を一本化して臨む与野党対決を軸とした選挙戦が展開され、岩手も実質的には横澤、平野両氏の一騎打ちとなった。
 激戦を制して初当選した横澤氏は、矢巾町出身。モトクロスライダーとしても活動していた25歳の時、事故で車いす生活となったことでチェアスキーに出合い、平成22年のバンクーバーパラリンピックに出場。
 車いす生活となって間もないころ、当時衆議院議員だった達増拓也知事の青年部活動に参画した経緯もあり、小沢一郎氏(衆院岩手3区)率いる旧・自由が、野党統一候補としての擁立を主導した。
 旧・自由の合流先の国民民主からは反発もあり、3月の立候補正式表明時は旧・自由、共産、社民の3党推薦だったが、最終的に自由合流後の国民民主、同党離党者らで県連を立ち上げた立憲民主も推薦を決め、まとまりをみせた。
 横澤氏は「『弱者に優しい社会はみんなに優しい社会』の実現」を掲げ、消費増税反対など政権批判の受け皿としてのアピールも強めながら、実績と知名度、組織力に勝る平野氏を追い上げた。4党からの協力要請を受けた達増知事も積極的に支援した。
 沿岸部などで平野氏にリードされたが、最大票田の盛岡市や小沢氏のお膝元の奥州市などで支持を広げ、接戦を制した。
 気仙では、推薦各党を支持してきた市議、町議、労働団体などが中心となって活動し、現政権に批判的な無党派層も取り込むなどしたが、3市町すべてで平野氏に後れをとり、大船渡市では1561票差、陸前高田市では126票差、住田町では133票差だった。
 敗れた平野氏は、農林水産省職員を経て平成13年に自由党公認で初当選、19年に民主党公認で再選。25年の選挙には民主を離党して無所属で臨み3選。27年の県知事選に自民党の支援で出馬を目指したが、告示直前で見送った。その後、「与党の立場で復興への職責をまっとうしたい」と、28年に自民入り。今回は昨年6月に公認候補としての立候補を表明していた。
 鈴木俊一五輪担当相(衆院岩手2区)や連立を組む公明の全面支援を受け、多くの業界団体からの推薦も取り付けるなど組織戦では優位に立った。3期18年の実績と初代復興相の知名度を生かして訴えを広げたが、党の悲願の27年ぶり議席確保はかなわなかった。
 梶谷氏は、団体が掲げる「NHK放送のスクランブル化」一点をインターネットで訴え、与野党ではない「第3の選択」を呼びかけたが得票は伸びなかった。
 与野党対決が軸となった今回の岩手選挙区は、野党共闘の力が上回り、その議席は与党に対する改革勢力の砦と位置づけられる。4党の後押しを受けた横澤氏が今後、国政に臨むにあたってどのようなスタンスをとるのか注目されそうだ。
 横澤氏の話 県民一人ひとりの思いの結集が勝利につながった。共通政策にしっかりと取り組んでいきたい。志をしっかり持ち、ぶれずにまっすぐ臨む。
                                 ◇
 県全体の投票率は56・55%で、57・78%だった平成28年の前回選を1・23ポイント下回った。気仙では大船渡市が59・96%(前回選比0・46ポイント増)、陸前高田市が60・90%(同1・04ポイント減)、住田町が63・39%(同0・08ポイント増)。
 期日前投票者数は、県全体で20万1147人(18・79%)で前回選を2・29ポイント上回った。気仙は、大船渡市が4717人(14・90%)で3・05ポイント、陸前高田市は2323人(13・81%)で1・41ポイント、住田町は766人(15・77%)で3・36ポイント、それぞれ前回を上回った。


岩手選挙区
当選者の略歴

 

 ◇横澤高徳氏(よこさわ・たかのり)矢巾町出身、盛岡工高卒。幼少時にモトクロスを始め、スズキ㈱でテストライダーを務めるなどした。25歳で練習中の事故により脊髄を損傷して車いす生活に。その後、チェアスキー選手となり、平成22年のバンクーバーパラリンピック・アルペンスキー男子大回転座位に出場した。矢巾町在住。47歳。

 

勝利を喜ぶ横澤氏の支持者ら

喜びに沸く横澤陣営

 

 横澤陣営は盛岡市大通の事務所に集まり、テレビの報道に見入った。午後11時10分過ぎ、当選確実が報じられると、大きな拍手と歓声が沸き起こった。
 選対総括責任者の伊藤勢至県議(国民民主党)は「18年もやった人に、たった4カ月で勝つことができた。岩手県民の皆さんに素晴らしい大きな選択をいただいた。横澤さんの今後ますますの活躍を期待する」と述べた。
 選対本部長の木戸口英司参議院議員(同)は、「多くの県民の皆さんのご支持、そしてその心を動かした皆さんの活動に感謝する。強く優しい岩手をつくる、これからその目標に向かってスタートする」と述べた。
 横澤氏は「一人一人の思いと力が結集したからこそ」と勝因を語り、選挙戦を支えた人々への謝意を示したうえ、「多様性を認め合う共生社会をつくるため、皆さんと力を合わせたい」と決意を語った。

 

肩落とす平野陣営

「努力不足」と語った平野氏㊨

 

 平野氏陣営は盛岡市内のホテルで開票結果を待ち、午後10時には用意された80席がほぼ埋まった。鈴木俊一五輪担当相をはじめ自民党の衆議院議員や県議、9月の知事選に立候補予定の及川敦氏らが険しい表情で並び、テレビやスマートフォンで開票状況を確認しながら、吉報を待った。
 横澤氏当確の一報が流れると、会場が静まり返った。このあと姿を見せた平野氏は「わたしの努力不足で、不徳の致すところ。わたしなりに必死の思いで訴えてきたがこういう結果になり、本当に申し訳ない」と、うつむきがちに述べた。
 記者団から敗因を聞かれ「都市部で反応が薄いと感じたのは事実」「(4年前の知事選不出馬を巡る影響は)直接言われたわけではないが、そこが今回の結果につながった大きな一つだと思う」などと語った。