2019知事選/気仙でも攻防激しく 序盤の情勢
令和元年8月28日付 7面
任期満了に伴う県知事選挙は、告示から6日目となった。届け出順に、立憲民主、国民民主、共産、社民の各党が推薦する無所属の3期目の現職・達増拓也氏(55)=盛岡市=と、自民党と公明党県本部が推薦する元県議で無所属の新人・及川敦氏(52)=同=が立候補し、9月8日(日)の投票に向けて舌戦を繰り広げている。7月の参院選に続いて与野党対決の様相を呈する中、気仙地区では達増氏が3期12年の実績と知名度をもって先行し、及川氏が浸透を図りながら追う展開となっている。
達増氏…3期の実績でリード
及川氏…浸透図りながら追う
今回の知事選は22日に告示された。平成27年の前回は無投票で、8年ぶりの選挙戦となった。東日本大震災からの復興、地域や産業の振興、少子高齢化対応などを争点として、県政継続を訴える現職の達増氏と、刷新を掲げる新人の及川氏の一騎打ちが展開されている。
3氏が立ち、実質的な与野党対決の構図で行われた7月の参院選では、野党統一候補の横澤高徳氏が28万8239票を得て初当選。3期目の現職で初代復興大臣も務めた自民公認の平野達男氏は27万2733票。県内33市町村中、横澤氏がトップ得票となったのは出身地の矢巾町をはじめ、盛岡、花巻、一関、奥州、滝沢、紫波、金ケ崎、平泉の9市町。このほか24市町村では平野氏が上回ったが、内陸部の大票田の情勢が明暗を分けた。
気仙での得票は、大船渡市が平野氏9565票―横澤氏8004票、陸前高田市が平野氏4872票―横澤氏4746票、住田町が平野氏1513票―横澤氏1380票。2市1町いずれも平野氏の得票が上回った。
国政野党4党が達増氏、自公が及川氏を推し、同様に与野党の戦いの構図となっている今回の知事選。
両候補は告示以来、県議選(30日告示)立候補予定者とも連動しながら、広い県内を回って舌戦を展開しており、序盤に気仙地区にも入って街頭演説を行ってきた。
達増氏陣営は、県の復興計画も推し進めてきた3期12年の実績を背景に、気仙地区でも幅広く浸透。7月の参院選で平野氏を推した層の一部も取り込むなど、勢いを見せている。
野党共闘の象徴的存在となっていることで、政府与党との連携を懸念する声もあるが、街頭演説などで同氏は「何党が与党であれ、住民の考えをもとに市町村や県が国に伝え、実行されるもの。復興事業もそうやって進んできた。主役はあくまで県民だ」との考えを示し、訴えを広げている。
及川氏陣営は、気仙における知名度の低さをカバーすべく自民支部が中心となり活動。鈴木俊一五輪担当大臣の支持層固めのほか、無党派層への波及も浮上の鍵を握りそう。
同氏は「県政と野党結集に何の関係があるのか。いたずらに政府や政権与党と対立を繰り返し、そのことで国と対話ができない状況。市町村とのパイプも詰まっている」と指摘。発災10年以降のポスト復興期間や国際リニアコライダー誘致などにおいて、与党とのつながりの重要性を訴える。
注目集める黄川田氏の動向
今回の知事選で注目要素の一つとなっているのが、立憲民主党県連顧問で元衆議院議員の黄川田徹氏(65)=陸前高田市=の動きだ。同県連は達増氏を推薦しているが、黄川田氏は告示日の第一声で及川氏応援のマイクを握っており、共闘の一角を崩すものとの見方も出ている。
黄川田氏は平成7年、陸前高田市職員から県議に転身。2期目の任期途中で臨んだ同12年の衆院選で初当選して連続6期。民主党政権では復興副大臣も務めた。24年の民主党分裂を機に、かつて行動をともにした小沢一郎氏と同氏に近い達増氏とは、表だって距離をとるようになった。
29年10月の総選挙には出馬せず勇退。国民民主党県連の代表を務めていたが、今年6月、小沢氏率いる自由党との合流後に国民民主離党者らが立ち上げた立憲民主県連の顧問に就任。7月の参院選では、県内から立憲民主公認で比例代表に立った候補者を積極支援していた。
こうした中、今回の知事選第一声では及川氏陣営に姿を見せ、応援のマイクを握り、「権力は持った時から腐敗する」と達増氏の多選批判に始まり、同氏と県内首長や政府与党との距離感に疑問を呈した。
事前アナウンスのない行動で、達増氏の第一声会場にいた立憲民主はじめ推薦各党関係者には「聞いていない」「何を考えているのか」などと困惑の表情が見られた。
第一声後、報道陣に囲まれた黄川田氏は「国政の立ち位置と首長選挙は違う。閉塞感がある岩手の政治を変えるきっかけは知事選しかない。岩手の政治の再スタートを切るための行動だ」と、個人の判断であることを強調。「(県連顧問を)辞めなさいと言われればその通りになるだろうが、進んで辞める気はない」とも語った。
現職時代は気仙や一関の旧3区を中心に厚い支持基盤を築いた黄川田氏。「野に下って2年。今の自分には、広く呼びかけるような力はない」と語るが、その〝影響力〟に両陣営の危機感、期待感が交差している。