被災文化財の修復に理解 海外の専門家 市立博物館の取り組み見学 陸前高田(別写真あり)
令和元年9月12日付 3面
ICOM─CC(保存国際委員会)、ICOM(国際博物館会議、本部・フランス) 京都大会2019組織委員会などが主催する「ICOM Kyoto 2019 ポストカンファレンスツアーin東北」は8~11日の4日間、東北各地で行われた。10日には、海外の博物館専門家らが陸前高田市矢作町にある仮設の市立博物館(大久保裕明館長)を訪れ、東日本大震災で被災した同市の文化財がどのようにして救出、修復、再生されてきたかを学んだ。
ICOMは、世界138の国と地域から4万4500人の博物館関係者で構成される世界最大の国際的非政府組織で、世界各国の博物館が行う取り組みを伝え、学び合う場として3年に1度大会を開催している。今回の開催地は京都府で、日本では初の開催となった。
同ツアーは、1~7日に開催されたICOM京都大会のプログラムの一環。今大会のテーマである「Museums as Cultural Hubs:The Future of Tradition(文化をつなぐミュージアム―伝統を未来へ―)」にのっとり、過去から継承した有形無形の文化財の保存と活用の方法を、日本の被災地の博物館での事例などから学ぼうと企画された。
同市を訪れたのは、日本の学芸員やアメリカ、ヨーロッパ各国の博物館専門家ら合わせて19人。市内の復興状況や博物館で行われている文化財の修復作業などを見学した。
市立博物館では、熊谷賢主任学芸員が大津波襲来当時の市街地の状況を写真とともに詳しく説明。高田町にあった市立図書館、市立博物館、海と貝のミュージアム、埋蔵文化財収蔵施設のすべてが被災し、約56万点の文化財が津波にのまれたが、全国の博物館や学術機関などの支援を受け、文化財レスキュー活動が展開されたことについて紹介した。
このあと、津波で被災した資料の修復に不可欠な除菌、脱塩などの「安定化処理」の方法を説明。世界でも類を見ない、海水や汚泥をかぶった文化財の保全について、一から処理方法を研究、模索してきたことや、その取り組みが現在も継続して行われていること、また、現段階での処理方法では修復できない文化財があることなどを伝えた。
参加者らは、話を熱心に聞き、質問を投げかけるなどしながら、世界でも前例がない中での修復作業に理解を深めていた。
ツアーに参加したICOM─CCのクリスティアーナ・ストレットクヴァーン会長(57)は「震災当時の博物館の状況や、文化財レスキュー、安定化処理などの取り組みについて知ることができてよかった」と話し、市立博物館関係者らに感謝を述べた。
大久保館長(62)は「震災から8年が経過し、当時の記憶も風化しつつある中で、被災地を少しでも気にかけてくれる人たちがいてありがたい。現時点では修復が難しい文化財もあるが、陸前高田の歴史を継承するために一つでも多く復旧させたい」と力を込めた。