全入所者避難で安全確保 気仙川沿いの「すみた荘」 移転新築後初めて 住田(別写真あり)

▲ すみた荘前では、足腰が不自由な入所者のピストン輸送を展開

世田米中体育館には、ベッドや生活用品も運び込まれた

 台風19号の接近に伴い、住田町世田米の気仙川沿いに構える特別養護老人ホーム「すみた荘」は12日早朝、高台に位置する世田米中学校体育館に入所者72人を避難させた。平成27年に移転新築した同施設では、避難確保計画を策定して以降、全入所者を対象とした〝丸ごと避難〟は初めて。職員と家族会の住民らが連携し、雨脚が強まる前から足腰の不自由な入所者や生活物資のピストン輸送が展開され、当初の想定よりも早く完了した。

 

職員らがピストン輸送

台風接近前にいち早く

 

 平成28年の台風10号襲来時、岩泉町の高齢者福祉施設に土石流が押し寄せるなどして9人が犠牲となった。翌年改正の水防法・土砂災害防止法では、洪水浸水想定区域や土砂災害警戒区域内の福祉施設に対し、避難確保計画の作成や避難訓練の実施を義務づけた。
 社会福祉法人・鳴瀬会(櫻井末男理事長)が運営するすみた荘は平屋建てで、27年に現在地に移転。町が28年に策定した防災マップでは、0・5㍍未満の洪水災害が想定される区域にある。今年1月に避難確保計画を策定し、6月に行われた町総合防災訓練では、消防関係者らとともに避難行動を確認していた。
 台風19号の北上を受け、すみた荘では11日昼の時点で全入所者のうち、入院者2人を除く72人を避難させると決定。職員らが準備をにあたるとともに、家族会に協力を要請した。
 計画では第1避難所を社会体育館としていたが、これまでに例がない規模の降水量が予想されたため、気仙川対岸の高台に位置する世田米中学校を避難先に選んだ。
 外が明るくなり始め、降雨が小康状態だった12日午前5時50分ごろから、福祉車両数台によるピストン輸送を開始。1台あたり約10分間隔で、施設正面入り口から車いすの入所者を乗せた。
 家族会関係者は、気仙川を渡る清水橋付近などで交通整理を展開。体育館では職員と家族会が協力しながら、入所者の搬送や生活物資の運び込みを行った。
 全入所者の避難は初めてだったが、混乱する様子もなく、スムーズに進行。入所者の輸送は当初、約3時間を見ていたが、1時間30分で完了した。館内では、入所者が職員や家族らと笑顔で会話を交わしながら朝食をとる姿が見られた。
 入所者は1泊し、施設に台風の影響がなければ、13日昼には戻る予定。この間、職員が交代しながら体育館に詰め、安全確保にあたる。
 すみた荘の鈴木玲施設長は「家族会の皆さんの協力もあり、入所者の皆さんは、われわれの予想以上に落ち着いていた。建物に被害が出ないことを祈るばかり」と話していた。