南方の熱帯魚が三陸沿岸で増加傾向 陸前高田などで約40種確認 Gキャンパスの高橋さん調査(別写真あり)

▲ 高橋さんが捕獲し、陸前高田グローバルキャンパスで飼育されている熱帯魚

 南方に生息する熱帯魚の生息状況を三陸沿岸で調査している「陸前高田グローバルキャンパス」管理人の高橋一成さん(52)は今年、同市などで約40種の熱帯魚を確認した。夏場の水温が上がる時期には三陸沿岸でも見ることができるが、その個体数と種類は増加傾向にあるという。高橋さんは、地球温暖化の影響を指摘し「今まで冬を越せなかった回遊魚が、越冬し始めているかもしれない」として、将来的には養殖漁業などの産業構造が変化せざるをえなくなる可能性も示唆する。

 

温暖化で海水温上昇

産業に影響の可能性も

 

 南方に生息する熱帯魚は、藻についた卵や稚魚が海流によって遠方まで流れ着くことがあり、三陸でも毎年、数種類が確認されている。通常は冬に海水温が低下すると死んでしまうため、これらは「死滅回遊魚」と呼ばれる。
 日本貝類学会会員で、県野生動物保護検討委員会の委員なども歴任する高橋さんは、2年ほど前から独自に死滅回遊魚の生息状況を調査。東北の三陸地方でも熱帯魚が見られることをグローバルキャンパスの来館者に説明し、地域について理解を深めてもらおうという狙いで始めた活動で、同施設ではカゴカキダイ、ハタタテダイなど27種類を飼育。〝ミニ水族館〟の様相を呈している。
 高橋さんは今年、宮城県松島町から本県宮古市までの約20カ所で調査を実施。タモで魚をすくって種類や数を調べているが、この夏は特に、陸前高田市と宮城県気仙沼市で種類や個体数の増加傾向がみられ、40種類ほどを確認したという。
 「松島や(石巻市の)雄勝半島ではこうした死滅回遊魚は見られず、志津川あたりまで来ると散見されるようになる」と高橋さん。陸前高田と気仙沼の両市で回遊魚が多くみられるのは海流の影響もあるとみる。
 近年、気仙地方の定置網漁などでも、イセエビが網にかかることがたびたびある。高橋さんによると、少し大きめのイセエビも取れるようになっており、「単に潮に乗って流れ着いただけでなく、三陸で越冬し、成長している可能性がある」と指摘する。
 冬場の最低水温が上昇し、死滅回遊魚などの越冬限界が北上すれば、死滅せず繁殖を始める熱帯魚が出てくることは十分に考えられるという。
 高橋さんは、「南の方で養殖されている魚がこのあたりでも育つようになるかもしれない。逆に、海水温の上昇はホタテ養殖に深刻な影響を及ぼす。もしかすると、未来にはホタテの養殖ができなくなる可能性もある。産業構造を見直す覚悟をし始める時が来ているのでは」と語る。
 高橋さんは死滅回遊魚の調査を今後も継続。「対馬海流が日本海側から津軽海峡を越えて太平洋沿岸まで来ているし、黒潮の一部が渦を巻いて岩手沿岸に近づいているということもある。来年は調査範囲をさらに広げ、どちらの海流の影響が大きいのかなども調べていきたい」と話すとともに、海中の変化について人々の理解や関心も高まっていけばとしている。