日展洋画部門で特選の栄誉 本県在住者で初の受賞 陸前高田の鷺悦太郎さん

▲ 日展で特選を受賞した作品「フローズン・タイム」

鷺悦太郎さん

 陸前高田市の美術家で、「被災と人間の関係」をテーマに創作活動に取り組む鷺悦太郎さん(61)の作品「フローズン・タイム」が、東京都の国立新美術館で24日(日)まで開催中の日本美術展覧会(日展)洋画部門において、非会員として最高の栄誉である特選を受賞した。100年以上の伝統を誇る日本最高峰の公募展である同展で、岩手県在住者が特選を獲得するのは初めて。なかなか元に戻らぬ被災地の生活で、人々が日々感じているもどかしさなどが何気ない日常のワンシーンに描かれた受賞作からは、被災した当事者ならではの深い洞察と表現を伺うことができる。

 

「被災と人間の関係」描く

 

 日展は、政府主催展(官展)の流れをくむ総合美術展。明治40年の文部省美術展覧会(文展)に始まり、帝国美術展覧会(帝展)、新文展と名前を変えながら、100年以上の歴史を誇る。日本画、洋画、彫刻、工芸美術、書の5部門あり、毎年その道の卓越した作家たちから数千点の応募がある日本最高レベルの公募展とされる。
 鷺さんは平成21年から10年連続で同展の洋画部門に出品しており、毎回入選。これまでも特選候補として最終の20作品に残ったことは何度もあったが、これが初めての受賞となった。今回は、同じく洋画部門で二戸市の高田啓介さんの作品「北の踏切」も特選を獲得。本県在住者が一挙に2人〝初受賞〟の栄に浴した。
 鷺さんの作品「フローズン・タイム」(油彩、F100号)は、すでに自身の作品の象徴といえる女性モデルが、造り酒屋の裏門前に腰かけ、複雑な感情が入り混じった表情で遠くを見つめる場面を描いたもの。審査員からは「繊細で丁寧な描写をしながら、自然な空間感を見事に表現している。光と陰の表現は穏やかで静かな時間を感じさせ、情感あふれる優れた作品である」と評価を受けた。
 震災後から一貫して「被災と人間の関係」をテーマに取り組み、白日会展の内閣総理大臣賞にも輝いたことがある鷺さんは、今も市内の仮設住宅に暮らす。しかし、発災から8年余りが経過する中で、「いつまでも『被災者』でいることに嫌気がさしており、少し別のテーマに取り組んでみようかと思った時期もあった」と振り返る。
 しかし、震災で大切な人やそれまでの暮らしを失い、「今も当時のまま心が〝凍り付き〟、時が止まったままでいる人も多くいるという事実を改めて考えさせられる機会があった」とし、「結局、〝震災〟に戻ってきてしまった」と語る。
 背景に描かれた場所は千厩で、今回もこれまでと同様、一見すると震災に根差した作品であるとは分からない。だが、人物の表情からは、悲しみ、悩み、焦り、もどかしさ──災害を経験した人が味わってきたさまざまな思いを読み取ることができる。 
 日展では、特選の受賞1回で「会友」となり、2回で「準会員」に推挙されるという。鷺さんは10年連続の入選に加えて、今回初めて特選を受賞したことから、今後の研さんで準会員として認められる可能性は高い。
 鷺さんは「一つの目標としてきたことではあり、受賞はこのうえない喜びだが、これを超える作品を描かないと、次はないということでもある。『これが特選も取ったことがある画家の絵か』などと言われないように身を引き締め、もっと表現の研究を重ねていきたい」と控えめに語った。