広田町の「漂流ポスト」題材に清水監督の短編作品 海外でも共感集める 国際映画祭で高い評価

▲ 国際映画祭の受賞トロフィーを赤川さん㊨に披露する清水監督

 陸前高田市広田町の赤川勇治さん(70)が始めた、〝亡き人に思いを届けられる場所づくり〟をモチーフとした短編映画『漂流ポスト/The Drifting Post』(31分)が、国際的に高い評価を受けている。「大切な人の死と向き合い、強い悲嘆の中から一歩踏み出す」という普遍的なテーマを、美しい映像と音楽で表現した清水健斗監督(36)=神奈川県横浜市=は13日、各国の映画祭で授与されたトロフィーを持参して赤川さんのもとを訪ね、「海外でも多くの人が作品テーマに共感してくれている」と報告した。

 「亡き人に語りかけたい言葉を手紙につづることで、行き場のない悲しみが少しでも癒やされるように」と願い、赤川さんが平成26年に開設した「漂流ポスト」。東日本大震災などで、突然大切な人を失った人たちから手紙が届けられ、その数はこの5年で600通近くになった。
 清水監督は一昨年、新人監督賞への応募作品を撮るにあたり、テレビのニュースドキュメンタリーで「漂流ポスト」の存在を知り、赤川さんに連絡。その後、インタビューを重ね、脚本を練り上げたという。
 物語は、震災で親友を失った女性・園美が主人公。ある日、「大人になったら一緒に開けよう」と約束して中学時代に埋めたタイムカプセルが見つかり、お互いに宛てた手紙が出てくる。園美は親友との約束を果たすため、手紙を漂流ポストに出そうと決める…というストーリー。
 同作品は今年、ロンドン国際映画祭で外国語部門最優秀助演女優賞を、ニース国際映画祭などで最優秀外国語短編映画賞を受賞。ベルリン、ニューヨーク、ストックホルムと各地の映画祭やハリウッドでも公開され、ミラノ国際映画祭にもノミネートされるなど、快進撃が続く。
 清水監督は「『映像が美しい』、そして『悲しみからどう立ち上がるかという普遍的なテーマを描いている』と評価していただいている」と説明する。
 日本では震災により「多くの人命が、ある日突然奪われる」という経験を味わったが、アメリカやヨーロッパの人々は9・11の同時多発テロなど、テロリズムによって同様の経験を持つ。
 清水監督は「心の蘇生」につながる漂流ポストの意義が、こうした背景からも世界中で共感を集めているということを、赤川さんに報告した。
 作品には、津波の映像やがれきだらけとなった街並みは登場せず、全編にわたってはかない美しさが漂う。中学時代の園美と親友が友情をはぐくんだ浜辺のシーンは、青春の輝きとあいまって、どこまでも繊細なきらめきが映し出される。
 一方、残酷な別れをもたらしたのは楽しい思い出が詰まったはずの海であり、主人公が悲嘆に暮れるシーンにも同じ浜辺が登場するなど、美しさと悲しみの表裏性が詩的に表現されている。
 自身も震災後、岩手でボランティア活動をした経験があるという清水監督は「震災を題材にとる意味と意義だけは、絶対に間違えたくないと思っていた。震災を描くことで少なからず批判はあると覚悟していたが、(評価を受け)やってきたことが間違いではなかったと思えた」と安どの表情を見せる。
 配給に頼らず、映画祭を回ることで鑑賞者を増やしてきた同作だが、短編であることなどから、いまだ東北での上映は実現していない。清水監督らは岩手県での公開方法も模索し、作品DVDを市立図書館に寄贈することなども検討しているという。
 赤川さんは「清水監督は、手紙が持つ力や一文字の重みというものをとてもよく理解し、ここに来る方たちの姿をそのまま表現してくれた」と話している。