視点/復興の進展阻む労働力不足 陸前高田㊤

▲ 陸前高田の中心市街地に移転したラフの店舗

本設再建するも働き手なし
「復興に寄与したい」…思いむなしく

 

 東日本大震災の発生から今月11日で8年8カ月が経過し、ハードの整備事業は収束へと向かいつつある。本県最大の津波被害を受けた陸前高田市でも、漁港や農地の復旧はすでにめどがつき、一昨年春から徐々に中心市街地が形成され始めている。一方、大船渡公共職業安定所管内(気仙3市町)の有効求人倍率をみると、求人が求職者数を上回る状態が続いており、どの産業分野でも「人手不足」が深刻化している。震災で壊滅的な被害を受けながら「復興に寄与したい」として立ち上がり、本設施設での営業を目指してきた被災事業者や新規創業者らの中にも、従業員を確保できず、オープンがとん挫するといったケースがみられる。地域経済の再生を阻む一因となっている労働力不足の現状と課題を整理し、考えられる対策や解決の糸口を探る。(鈴木英里)

 

仮設商店街から市街地へ移転

 

 陸前高田市高田町にある大型商業施設「アバッセたかた」北側の宅地に今年春、カラフルでかわいらしい二つのコンテナが運び込まれた。昨秋まで竹駒町の未来商店街で営業していた「Laugh(ラフ)」が、新装オープンを目指し中心市街地に移転してきたのだ。
 ラフは平成24年春、東京でアパレルの仕事に就いていた当時20代のオーナー・菅野恵さん(気仙町出身)が「被災した古里のため、みんなが笑顔になれる場所をつくりたい」と立ち上げた服飾雑貨店。神田葡萄園(米崎町)の協力でブドウ果皮を使ったオリジナル洗顔せっけんを開発したり、陸前高田産のスギとヒノキを使ったアロマオイルを製造・販売するなど、地元のものを生かした商品展開も積極的に行ってきた。
 こうした雑貨や、菅野さんがセレクトしたセンスのいい衣料品などが評判となり、同店は女性を中心に幅広い世代のファンを獲得。中小企業基盤整備機構が整備した仮設商業施設の供用が昨年で終了したことを受け、菅野さんは中心市街地での営業再開を目指し、準備を進めてきた。今年7月には建物の基礎工事や電気、水道工事が完了。すでに店としてオープンできる基盤は整っている。
 「ラフ、いつオープンするの?」
 仮設時代からの〝シンボル〟だったコンテナを市街地に見つけた顧客たちからも、よくそう尋ねられる。
 しかし、開店時期は現在も未定のまま。肝心のスタッフが見つからず、求人広告を出しても応募がない状態が続いているのだ。
 菅野さんは、未来商店街時代も東京に軸足を置きながらオーナーとして同店を経営し、店長などのスタッフは地元在住者を雇用。今も東京と陸前高田を行き来していることから、自身が常駐することはできず、店を切り盛りする地元スタッフの存在が欠かせない。 
 「店を任せられる人さえいれば、いつでも開店できるのに…」
 菅野さんは頭を抱える。

 

間口広げてスタッフ探す

 

 被災事業者ではなく、陸前高田で新規に創業した貴重な若手でもある菅野さん。震災直後から「私が店を出すことで、『陸前高田のために何かしたい』と思っている若い人や地元出身者の背中を押せれば」と語っており、これからの地域を盛り上げる力としても期待がかけられてきた。
 「高校生のとき、陸前高田では買い物するところがなく、おしゃれできないことがいやで仕方なかった」。「遠くに行かなくてもおしゃれができる場所をつくりたい」──ラフが誕生したのは、そんな思いからだ。
 現在、同店のコンテナ店舗が設置されているのは、駅前通りの交差点。BRT陸前高田駅を利用する高田高校生や、市内の中学生も休日に立ち寄れる絶好の場所に移転できた。それにもかかわらず、人材を確保できず窮地に立たされている。
 仮設店舗の供用が終了するときも店をやめることは考えず、「新天地で続けよう」「復興のシンボルになろう」と頑張ってきた菅野さん。「せっかく始めたことだから続けたい。でも今のままでは…」。そんな〝最悪の事態〟は免れたいと、解決の道を探る。
 同店はホームページ(https://laugh-rikuzentakata.jp/)の問い合わせフォームから、引き続きスタッフを募集。菅野さんは「接客が好きで人当たりのいい人だったら、男女問わずどなたでも来てほしい。子育て中の方でも、未経験者でも構わない」といい、午前だけ、午後だけといった、さまざまな勤務形態の要望にもできるだけ応えたいとしている。

 実はこうした〝短時間だけ働く〟という求人・求職の形態は、近年「人材不足解消の大きなヒント」として、社会的にも注目されつつあり、自治体などでも推進の動きがみられ始めている。