前住職の思い受け継ぐ 報恩講用の仏花を制作 昨年本堂再建した本称寺 陸前高田(別写真あり)
令和元年11月28日付 7面
陸前高田市高田町の海詠山・本称寺(佐々木隆道住職)で27日、浄土真宗の一大行事「報恩講」が始まった。これを前に、佐々木住職(56)と門徒らが報恩講用の仏花を仕立てる伝統の「花立て」を行った。東日本大震災で全壊した本堂は昨年春に再建されたが、新しい本尊は今月安置されたばかりで、新本堂で正式な報恩講を行うのは初めて。佐々木住職や門徒らは「ようやくここまで来た」と感無量の思いを胸に抱きながら、震災で亡くなった先代住職・廣道さんが構築した仏花の立て方を継承するうえでの課題も見つめる。
伝統の「花立て」継承に課題も
報恩講は、浄土真宗の開祖・親鸞聖人の遺徳をしのび、祥月命日である11月28日近辺に行われる真宗各派の一大行事。報恩講に合わせ、同寺では重要な仏花を門徒とともに作る「花立て」を行い、本尊の前に二つ並べるのがならわしとなっている。
真宗大谷派における仏花のあしらいは、華道・池坊の古典的様式の生け花である立華から発達したものだが、同寺では佐々木住職の父である先住の廣道さんが、池坊の流儀を学んだうえで独自に研さんを積み、現在の形を構築。50年以上にわたって門徒たちと一緒に作り上げてきた花立ては、〝本称寺オリジナル〟といえるものになっている。
本堂が全壊する被害を受けた大震災では、廣道さんも津波の犠牲となった。同寺は町内に仮設本堂を設置し、規模を縮小しながらも報恩講を継続してきた。
同寺の花立てはマツ、キク、イブキなどを花瓶(かひん)にそのまま生けるのではなく、すべて人の手で念入りに整形して作る。マツの枝にキリで穴を開け、そこに松葉がついた細い枝を刺していくなど、時間と手間、技術を要する大変な作業で、制作には菅野榮雄さん(83)、岡田耕吉さん(82)、佐々木薫さん(79)=いずれも高田町=ら、行事に20年以上携わるベテランの存在が欠かせない。
今月6日、本尊の阿弥陀如来を本堂にお迎えし、ようやく寺として本当の〝再建〟を果たした本称寺。正式な本尊の前に仏花が二つ並んだ光景を見て、一同は「感無量」と声をそろえる。
一方で、作り手の高齢化と後継者がいないことから、同寺オリジナルの花立ては継承の危機に立たされている。震災前は7、8人でにぎやかに作業し、1人一つずつ、計八つの花瓶を仕立てていたというが、今年は略式のものも含めて五つの仏花を完成させるのに9日かかった。
心から草花を愛し、人々と一緒に過ごすことが好きだった廣道さんの思いとともに、佐々木住職は門徒らに習う形で花立てを受け継ごうとしている。現在は名古屋市にいる住職の長男・証道さん(24)も帰省し、2日間ほど作業を手伝ったが、菅野さんらは住職親子に「もうちょっと頑張ってもらわないと」と厳しい。
震災前、同寺の報恩講は11月23〜29日にかけて行われ、昼夜の法要などのほか、門徒と寺とがお斎(とき)と呼ばれる食事をともにとり、結びつきを深めていた。しかし、160軒余りの門徒が被災。震災後は27、28日の2日間しか行事を執り行えず、お斎もまだ再開されていない。
岡田さんは「震災のせいにはしたくないが、以前のように人が集まるような寺でなければ、花立ても残していくことは難しい」といい、菅野さんも「続けているのは、先代から教わったことを残したいから。だが自分たちも年をとり、どんどんできなくなっている。根がしっかり張られていなければ、伝統は守れない。そのためにも今から手を打っておかないと」と語る。
佐々木住職はベテランたちの厳しい言葉を真摯(しんし)に受け止め、「先住が50年かけて作り上げてきたもの。なんとか守り残したい。作り方を覚えるだけではなく、寺のあり方も考えていかなくては」と気持ちを引き締めていた。