国内初、海底に起伏式水門 細浦の防潮堤に導入 県による工事スタート 大船渡

▲ 巨大な函体が据え付けられた

完成イメージ/扉体倒伏時

完成イメージ/扉体起立時

 県が整備を進める大船渡市の大船渡漁港海岸(細浦地区)防潮堤に導入される起伏式フラップゲート水門の工事が始まった。津波の波力によって起き上がり、堤内への浸水を防ぐ水門で、海底への設置は国内で初となる。9日には、高さ19㍍にもおよぶ函体(かんたい、箱型のトンネル構造物)の据え付けが行われた。来年3月にはゲート部分の据え付けも予定しており、県では水門を含めた防潮堤の早期完成を目指して工事を進めていく。


津波の波力で起立

 

 東日本大震災から8年8カ月余りが経過した本県漁港海岸では、津波防災のための防潮堤整備が進んでいる。
 このうち、大船渡漁港海岸の防潮堤は平成25年度に着工。災害復旧に加え、無堤区間への防潮堤新設(海岸高潮対策事業)も行われている。復旧、新設される防潮堤の高さは、数十年から百数十年に1回程度の頻度で発生する津波を想定してT・P(東京湾平均海面)7・5㍍に設定されており、被災前(T・P3・4㍍)の倍以上の高さとなる。
 工事は、大船渡地区と細浦地区に分かれて実施。このうち、起伏式フラップゲート水門が設置される細浦地区での防潮堤新設区間は約478㍍となっている。
 震災前は無堤区間だった細浦地区では、震災の津波によって家屋や水産加工場などが甚大な被害を受け、防潮堤整備が切望されていた。その整備計画については、平成24年から住民向けの説明会が開始され、10回以上議論の場が設けられ、25年10月、細浦地区六地域公民館協議会から「地区住民の総意として『細浦湾口』を水門式に」という要望書が出された。
 漁港利用者からは津波来襲時の漁船沖出しの関係で反対意見も上がったが、最終的には理解を得られたことから、水門式での工事を進めていくことが決まった。
 日立造船㈱、東洋建設㈱、五洋建設㈱の3社が共同開発した起伏式フラップゲート水門は、平常時は船舶航行を妨げないよう、扉内に空気を入れて必要浮力を確保したうえで、海底に倒伏状態で係留。係留フックを外すことで浮上して起立準備となり、波の波力によって起立する。堤内への津波侵入を防ぐほか、浮上後は一定の高さまでしか下がらないため、引き波時に港内の水位を一定に保つことで漁船の転覆を防ぐことができるという。
 操作は、遠隔操作システムを採用。全国瞬時警報システム(J─ALERT)による緊急信号を受けると、統制局(県庁、釜石合庁)が衛星回線を用いて対象施設を自動で閉鎖する。
 水門部分は大阪府堺泉北港から海運され、2日に大船渡に到着。9日早朝、兵庫県の建設・土木会社が所有する国内最大級の旋回式起重機船を使って、大船渡港永浜埠頭(ふとう)から細浦に運ばれて据え付けられた。
 函体は重量1388㌧、長さ41㍍、高さ19㍍で、据え付け後は水門の両端部分(T・P7・5㍍)が海面に顔を出している。
 県では来年3月、扉体(ゲート)四つを函体に据え付ける予定。水門部分の工事進ちょくと調整しながら防潮堤工事を進め、細浦地区の防潮堤全体の完成は令和2年度3月を見込む。総工事費は約84億円。
 県沿岸広域振興局水産部大船渡水産振興センターの佐々木徳美漁港復旧課長は「水門が設置されて終わりではないので、両サイドの防潮堤整備も進めていかなければならない。一日も早い完成を地域の皆さんも望んでいると思うので、その期待に添えるよう努めたい」と話している。