東日本大震災から8年9カ月─ 気仙はいま(62) 陸前高田市のユニバーサル就労支援 ①

▲ 竹駒町の「ひまわりハウス」を利用し、ユニバーサル就労支援センターが設置された

 年齢、性別、国籍、障害の有無などを問わず、誰もが暮らしやすい「ノーマライゼーションという言葉のいらないまちづくり」を掲げ、障害者の活躍、交通弱者の移動を地域内で考える取り組みなどを推進する陸前高田市。今年6月には民間に事業委託し、「ユニバーサル就労支援センター」を開設した。一定の能力を持ちながらも、何らかの理由で既存の就労の枠組みからはみ出してしまう人などに寄り添い、一人一人の事情に合わせた「オーダーメード」の支援を展開するのが特徴で、全国でもまだ3例目、東北では初めていう先進的な取り組み。〝制度のはざま〟に取り残された人に手を差し伸べ、「誰もが働きやすい社会」をつくるため、まずは地域からその機運を醸成していこうとしている。(鈴木英里)

 

誰もが働きやすい地域へ

 

 「ノーマライゼーションという言葉のいらないまちづくり」に加え、国連全加盟国が一丸となって取り組む持続可能な開発目標、SDGsに掲げられた「誰一人取り残さない社会」の実現を目指す陸前高田市。ふるさと納税の返礼品発送作業を気仙両市の福祉事業所に委託しているほか、地域ブランドである「北限のゆず」の搾汁や商品開発を、高田町の指定就労継続支援B型事業所・あすなろホームが行うなど、ハンディキャップがある人の活躍の場を創出している。
 また、東日本大震災を契機とした結びつきから本年度始まった海産物の陸上養殖施設や、今後、気仙町の今泉北区に整備される「ワタミオーガニックランド」などでも、積極的に障害者を雇用するという方針を示している。
 一方、介護、育児といった家庭事情、持病などの都合から、定められた枠組みでの就労が難しい人や、他人からはわかりにくい障害が原因で対人関係を築くのが苦手だったり、「外に出るのが怖い」という人など、就労意志を持ちながら壁にぶつかっている求職者もいる。そうした人は外から見えにくいうえ、複合的な課題を抱えているケースも少なくないため、問題には多角的なアプローチが必要とされる。
 こうした既存の制度や求人形態では取りこぼされてしまう求職者の悩みに幅広く応えるため、市は竹駒町の「ひまわりハウス」を利用し、ユニバーサル就労支援センターを開設。公益財団法人共生地域創造財団がその運営にあたっている。
 同財団は、NPO法人・ホームレス支援全国ネットワークなどを母体とした組織。同ネットワークは、なんらかの理由で社会からドロップアウトしてしまい、生活困窮に陥った人の社会復帰の足掛かりをつくるとともに、本人が自立した生活を送れるまで「ともに歩み、支える」というスタンスで事業を展開している。
 就労支援センターも、これに基づく「伴走型支援」という考え方で運営。さまざまな〝つまずき〟を抱える人をサポートするにあたって、まずは当事者との関係性を築き、課題を把握していくことが重要とし、「面談」と「就労準備支援」を丁寧に行う。
 面談は、本人の置かれた状況や困りごとを聞き取り、「苦手」を克服するために何をすればいいかを一緒に考えるためのもの。当事者のみならず家族や周囲の人の同席も可能で、来所が難しい場合は自宅などにも出向いている。
 この段階で、より効果的に支援ができる機関や団体がある場合は、そこにつなぐ。
 また、当事者から働く意志や希望が聞かれた場合には、個々の事情と資質、希望をくみとった「オーダーメード」の就労サポートへと広げていく形だ。