「壽限無亭」が全焼 交流、自然体験の拠点 各方面から焼失惜しむ声 大船渡(別写真あり)
令和2年1月7日付 7面

大船渡湾を一望できる自然豊かな高台にあり、市内外からの来訪者の交流や子どもたちの自然体験、レクリエーションの拠点施設として開放され、親しまれていた大船渡市大船渡町字鷹頭のログハウス「壽限無(じゅげむ)亭」が5日夜、全焼した。出火当時は無人でけが人はなかったものの、多くの人に利用され、愛されてきた施設の焼失を惜しむ声が各方面から上がっている。
大船渡警察署によると、同日午後6時12分、大船渡町内の住民が110番で火災を通報した。
現場は国道45号から細い山道を1㌔ほど登った山林内。消防職・団員ら約270人が出動し、消火に当たったが、道路環境や水利が悪く、木造2階建てのログハウスや作業場など合わせて約76平方㍍を全焼した。
さらに、周囲の山林にも火が回り、ジェットシューターも活用しながら消火活動を展開。山林2179平方㍍を焼いて、同10時10分に鎮火した。
6日午前9時30分から警察・消防関係者による現場検証が行われたが、同日午後6時現在、出火原因は判明していない。
東海新報の取材によると、出火当日は施設を管理していた同町の佐藤勝哉さん(77)が午後4時ごろまで壽限無亭におり、屋内のまきを使う暖炉を使用していた。佐藤さんが帰った後は無人の状態だった。
佐藤さんは「帰るとき、暖炉の火がまだついていたのかもしれない。みんなでつくった建物がなくなってしまい、本当に申し訳ない」と話している。
壽限無亭は、同町下船渡33の6、無職・大和田壽弘さん(77)が所有する土地に、佐藤さんをはじめとする大和田さんの同級生らが20年ほど前に建てたもの。大和田さんの山林から切り出した木材が使われ、母屋のログハウスや展望デッキなどがすべて手作りで建てられた。
大船渡湾を見下ろす高台の深い木立の中に立ち、動植物が見られる絶好の環境にあることから、口コミで評判が広がった。子どもたちの自然体験やレクリエーションのほか、市内外からの来訪者がさまざまなイベントや交流行事で利用。全長24㍍もある竹製の流し台を使った流しそうめんや、石窯でのピザ焼き体験なども好評を博していた。
3年ほど前から何度も壽限無亭に足を運んだという同町の野沢雅夫さん(70)は「行政無線が鳴ったあと、フェイスブックで壽限無亭から出火したことを知って驚いた。もうあそこでお茶を飲んだり、きれいな景色が見られなくなると思うと悲しいが、佐藤さんが無事だったことが不幸中の幸い」と語る。
過去に2度、大船渡市の友人に連れられて同施設を利用したことがある東京都品川区の岡山智香さん(36)は、「学生時代の仲間たちと一緒にワイワイ楽しんだのが昨日のことのよう。一昨年、夫と娘の3人で訪れたときには流しそうめんをしていただき、娘が目を丸くして喜んでいた」と振り返り、「壽限無亭での思い出はずっと記憶に残るもの。楽しい時間をくれて本当に感謝です」と語った。