子らの「怠け」いさめる 小正月の奇習「吉浜のスネカ」 大船渡
令和2年1月17日付 1面

大船渡市三陸町吉浜に伝わる小正月の奇習「吉浜のスネカ」は15日夜、吉浜各地で行われた。国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録されてからは2度目。奇怪で恐ろしい形相のスネカが家々を訪ね歩き、地域の子どもたちの「怠け」をいさめた。
この日は、吉浜スネカ保存会(柏﨑久喜会長)のメンバーや、地元の中学生ら合わせて24人がスネカに扮(ふん)し、吉浜の約400世帯を訪ね歩いた。
このうち、寺澤幹嗣(もとつぐ)さん(47)宅では、日没後、幹嗣さんの娘のつぐみちゃん(5)と息子の湧李(ゆうり)君(2)が、幹嗣さんや母・希実(のぞみ)さん(33)、訪問客らと和やかに団らんしている時にスネカが登場。玄関の戸がガタガタと音をたて揺れたあと、奇怪な面とわらみのをまとった2体のスネカが、子どもたちのいる居間に姿を現した。
「泣くワラシいねえがー」などと大声を張り上げるスネカを見て、つぐみちゃんは幹嗣さんにしがみついて泣き叫び、希実さんに抱かれた湧李君も手で両目をふさいで涙声。スネカに「お父さんとお母さんの言うことをきくか」と問われると、2人とも「ききます」と約束した。
スネカが立ち去ったあと、子どもたちは「怖かった」とつぶやき、両親から「また一つ大人になったね」「これからもお利口にしようね」と声をかけられると、しっかりとうなずいていた。
幹嗣さんは「こんなに泣くのはスネカの時ぐらい。いっぱい泣いた分、健康で明るく、そしてたくましく育ってほしい」と願った。
スネカは、子どもや怠け者をいさめる一方で、里に春を告げ、五穀豊穣や豊漁をもたらす精霊ともいわれる。いろりのそばで怠けている者のスネの皮を剥ぐという「スネカワタグリ」が語源とされ、江戸時代から約200年にわたって続けられていると伝わる。
平成16年に国の重要無形民俗文化財に指定。30年11月には、「来訪神:仮面・仮装の神々」として、全国7県9件の来訪神行事とともに、ユネスコの無形文化遺産に登録された。
柏﨑会長は「スネカは、先人が生きるためにと知恵を絞り、編み出したすごい風習。子どもが減っている中ではあるが、これからも自然に、今まで通りの形で続けていきたい」と話していた。