「切らない林業」若い手で 未利用カエデに注目 メープルシロップに加工へ 住田(別写真あり)
令和2年2月16日付 7面
住田町内で未利用広葉樹の一つであるカエデの有効活用を見据え、メープルシロップの原料となる樹液採取が15日、同町で行われた。活動には岩手大学農学部の学生に加え、森林環境活動に参画する住民や、地域創造学授業でカエデに関心を抱いた住田高校生が参加し、樹液のほのかな甘みを体感。新たな特産品開発や自然資源活用だけでなく、幅広い住民が山に入る機会の創出など「切らない林業」の観点からも注目を集めている。
岩大生と住高生が樹液採取
採取活動には岩手大学農学部の学生と住田高校3年の生徒各3人に加え、同学部の松木佐和子講師と、住民ガイド・すみた森の案内人の会の佐々木慶逸事務局長が参加。世田米と下有住に伸びるカエデ計10本には、12日の事前作業で高さ70㌢の幹部分に穴を開けてホースなどを取り付けていた。
世田米合地沢地内の沢沿いでは、イタヤカエデ5本から採取。学生と高校生らが力を合わせ、ホースから樹液が注がれたタンクを外し、計量などを行った。中には、2㍑ほど樹液が出ていた木も。高校生らは作業の合間には樹皮にしたたる透明の液体を口に含ませ、わずかに広がる甘みを体感した。
樹液は一般的に、葉を形成するために根から水分を活発に吸い上げる2月下旬前後が確保しやすく、1本から年間で平均20㍑程度の採取が見込まれる。樹液自体の糖分は1、2%程度。メープルシロップの糖分は60%程度が基準という。
下有住のカエデも回った後は、確保した樹液を煮詰める作業にも挑戦。生徒たちは積極的に手を動かしながら、シロップの有効活用に期待を込めた。
参加した住田高校3年の佐々木碧莉さん(18)は本年度、地域創造学の授業でカエデの活用について研究。卒業後は調理師免許などを目指して、盛岡市内の専門学校に進学する。
実際に採取から加工までの作業に触れ「1本の木からこんなに樹液が出るとは思わなかった。メープルシロップと住田産の豚肉、鶏肉を生かした特産品が生まれてくれれば。後輩たちにはこれからもカエデについて研究してほしいし、専門学校に進んでも利活用を考えていきたい」と今後を見据える。
岩手大学農学部3年の高橋恵太さん(21)も「これまで、カエデをはじめとした広葉樹の利用が進んでいないことを学んできた。もっと広葉樹に注目が集まり、地域活性化につながって活動が広まってほしい」と話していた。
採取は数日おきの作業が必要で、活動に賛同する地域住民らに協力を依頼。3月には活動報告会も計画している。葉のつき方など、樹液を採取しない木と成長面の比較も行うという。
町内ではさまざまな種類のカエデが生息し、道路沿いなど比較的行きやすい場所に伸びている。一方で木材利用は難しいため、樹液活用は「切らない林業」の観点でも注目を集める。
さらに、採取作業が比較的簡単で、幅広い住民が参加しやすい利点もある。山に入る機会をつくり、樹木の鳥獣被害や虫害被害をいち早く確認するなど、加工以外の波及効果も見込まれる。
松木講師は「カエデは道路沿いや庭先にもあるほか、すでにある木を活用するため、住民が里山に入り、目を配る機会を増やすこともできる。樹液が採れることを広く知ってもらい、利活用などにも関心を抱いてもらえれば」と期待を込める。