記憶と記録 歩み一冊に  「3・11からの教育復興」 前大船渡市教育長の今野氏が備え充実の思い込め発刊 

▲ 発刊された「3・11からの教育復興」

今野洋二氏

 前大船渡市教育長の今野洋二氏(68)=大船渡町=は、「3・11からの教育復興―東日本大震災 被災地大船渡の歩み」を発刊した。自らの足跡や各種資料、新聞報道などから発災以降の動きを事実に基づいて客観的に残すだけでなく、学校現場が直面した課題や苦労、悩み、未来を見据えた決断にも触れ、教育復興への動きをきめ細かにまとめた。小中学校をはじめ施設再建までの道のりを見つめ直すだけでなく、今後全国各地で起こりうる災害への備えとしての活用に期待を込める。

 

 今野氏は昭和50年から教職となり、大船渡市教委学校教育課長、市立第一中学校長などを歴任。平成22年4月に教育長に就任し、同29年9月に退任した。
 7年半に及んだ教育長時代の大半は、東日本大震災からの復旧・復興業務に傾注。「これまで誰も経験したことのない異次元の世界」の中で日常を取り戻すべく、前例のない日々を過ごした。こうした中で「経験したことや学んだことを、自分だけのものにしてはいけない」との思いも持ち続けてきた。
 退任後、自らが書きとめてきた備忘録に基づく事実関係や、教育委員会がすでに公開した各種資料を整理。自らの記憶や記録と向き合い、編集作業に約2年を費やした。
 6章構成で、平成23年3月11日午後2時46分からの動きや約1カ月を要した学校再開、国内外から寄せられた数々の支援などを振り返った。
 さらに、被災を免れた学校グラウンドに整備された仮設住宅住民との交流や、さまざまな課題を乗り越えて再建を果たした校舎整備、社会教育の復興にも触れている。
 小中学校の被災状況をはじめ教育委員会の各種資料や東海新報社提供の写真、新聞記事を織り交ぜ、震災直後からどのような調整に迫られたかや、生徒・教職員の心のケアの重要性にも言及。児童生徒の高台への避難行動や仮設住宅の用地確保に関しては、学校現場における教訓をふまえた提言も添えた。
 巻末には、柏崎正明元大船渡小校長、千田智明元赤崎小校長、櫻田靖三元赤崎中校長の寄稿文を掲載。目の前に大津波が押し寄せる中での命を守る行動や地域ぐるみの防災体制、日ごろの防災教育の重要性がまとめられている。
 今野氏の自宅は、昭和35年のチリ地震津波が襲来した地に近く、震災で全壊。あとがきでは、震災当日に母や妻と離れ離れになった不安や震災で妹を失った悲しみなど、被災者として「自分の中に重苦しくあり続けること」もつづった。
 そのうえで「将来、どんな災害が起きるのか誰にも分からない。私たちにできることは、起こりうることを想定しながら備えることしかない。万が一大きな災害が発生した際には、行政や学校は過去に学びながら適切な対応を図り、住民や児童生徒を守っていかなければならない」と記した。
 今野氏は「復興について、教育に関するものだけをまとめた本が少ないと感じていた。行政や学校、保護者、子どもそれぞれの思いが詰まった記録誌を残したいとも考えていた。まとめる中で、現職時代には気づかなかった視点や新たな発見もあった」と話す。
 大津波を察知して生徒や教職員たちが高台に逃げ、壊滅的な校舎被災からグラウンドへの仮設住宅整備などを経て、校舎再建などに至った足跡は、後世に生かされるべきとの願いが退任後も日々膨らみ続けたという。「多くの方々から協力をいただき、写真を多く取り入れ、震災直後からの情景をまとめることができた。大船渡市の教育行政の歩みが、後世に広く生かされてほしい」とも語る。
 B5判252㌻、500部発刊。市内の教育機関をはじめ、県教委、市町村教委、図書館、気仙管内の小中学校に寄贈するほか「南海トラフ地震をはじめ、今後大きな津波襲来が想定される地域にも届けることを考えていきたい」としている。