炎に願う「復興完遂」 聖火の展示セレモニー開催 大船渡で(別写真あり)
令和2年3月24日付 6面

東京五輪の聖火を東日本大震災の被災地でともす「復興の火」の展示が22、23の両日、本県で行われた。22日は三陸鉄道とJR東日本のSL銀河によって沿岸と内陸部を巡回。23日は大船渡市大船渡町の市防災観光交流センター(おおふなぽーと)で聖火が展示され、市内外から集まった多くの人が復興完遂への思いを燃ゆる聖火に重ねた。
聖火リレーの聖火引き継ぎ式は19日、ギリシャの首都アテネのパナシナイコスタジアムで行われ、空輸によって20日に航空自衛隊松島基地に到着。本県では22、23の両日、計8カ所で「復興の火」が展示された。
このうち、23日はおおふなぽーと前で県主催による展示セレモニーを実施。公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の布村幸彦副事務総長が「復興の歩みが着実に進むことを祈り、復興の火と、続いて実施する聖火リレーの光により、多くの方にとって希望のある震災からの10年目となることを皆さまとともに願っていきたい」とあいさつしたあと、戸田公明大船渡市長が聖火皿に点火した。
新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため、予定されていたステージイベントは中止となったが、聖火を一目見ようと、開式前から多くの人が列をなした。見学者は式が終わると同時に復興の火をバックに記念撮影を行い、風にも負けず燃え続ける力強い聖火に復興完遂への願いを込めた。
宮城県気仙沼市から訪れた但野芳久さん(73)は「(聖火を見て)感動しました。オリンピックは、延期したうえで万全の状態で開催してほしい」とし、「大船渡、陸前高田には頻繁に来ていますが、来る度にまちなみが変わっている。聖火の展示、オリンピックをきっかけに多くの人が訪れ、さらに復興が進んでいけば」と話していた。
◇
会場では同日、㈱キャッセン大船渡(田村滿社長)が「昔ながらの上棟式」を開催した。
上棟式は一般社団法人・気仙大工の復権と未来を考える会(木川田典彌代表理事)の会員・鈴木昭司さん(57)=五葉建築設計事務所代表、日頃市町=が企画。東京オリンピック・パラリンピックが「復興五輪」を掲げていること、新国立競技場を設計した隈研吾氏が気仙大工に敬意を示していることなどを踏まえ、「復興五輪への祝意を気仙地方で継承されてきた上棟式で表し、大会が成功裏に進むよう願おう」との思いを込めた。
これにキャッセン大船渡が賛同し、考える会の技術協力も受けて実現に向けた取り組みが進められてきた。
おおふなぽーと前には和風切妻屋根、船枻(せがい)造りの上棟式を模した建物(表側のみ)の骨組みが建設され、気仙大工の技術が光る高さ約7㍍の建物が来場者の目を引いた。
鈴木さんは「国内外の復興支援をしていただいた方々に思いが届けば。震災前はこうした上棟式の風景があった。当時を思い出しながら復興への道のりをイメージしていただければ」と話していた。

SL銀河によって運ばれたランタン
ランタン乗せたSL銀河が到着
上有住駅
住田町上有住のJR釜石線・上有住駅では22日、SL銀河で運ばれた「復興の火」の展示が行われた。訪れた住民はランタンの火をじっくり見つめたほか、力強く走行する機関車の勇姿を間近で眺め、早期復興と五輪開催への思いを膨らませた。
同日は三陸鉄道宮古駅でセレモニーを実施。ランタンに移された火を乗せた特別車両が出発し、釜石駅でSL銀河に乗り換えて上有住駅に到着した。
同駅前には展示台が用意され、客車から運ばれたランタンを神田謙一町長が設置。遠野駅を目指して出発する間のわずか10分ほどの展示となったが、心待ちにしていた200人超の地域住民らが小さな炎を見つめ、写真に収めた。
住民らは、火を乗せたSL銀河の出発風景も間近で堪能。手渡された小旗を振りながらにぎやかに見送り、山あいの小さな駅は活気に包まれた。
見学に訪れた有住小学校1年の佐々木千尋さん(7)は「(中止となった)20日のSL銀河乗車イベントには参加できなかったけど、SLを間近に見ることができてうれしい。復興の火もちゃんと見ることができた」と語り、笑顔を見せた。
神田町長は「新型コロナウイルスの感染拡大が心配されるが、こういう時期だからこそオリンピックを予定通り開催して、前を向く機会をつくってほしい」と期待。6月に気仙両市などで行われる聖火リレーメンバーに選ばれている上有住の佐々木豊秋さん(70)も「オリンピックを身近に感じることができた。なんとか予定通り開催してほしい」と話していた。