大窪山のみでの実施を提案 吉浜の太陽光発電計画で事業者 土木工事リスクを低減 大船渡

▲ 吉浜地区太陽光発電事業の変更計画案が示された説明会

 大船渡市による「吉浜地区太陽光発電事業の計画変更に関する説明会」は27日夜、三陸町吉浜の同地区拠点センターで開かれた。同地区の住民代表らが出席し、民間事業者が同地区の荒金山と大窪山に2カ所の太陽光発電所を建設する計画について変更案を説明。市側も事業推進への考えや責任姿勢を示した。変更計画は住民らの懸念の声を受けて土木工事リスクを削減し、大窪山でのみ発電事業を行うもので、出席者からは地域の水源確保などを理由に反対する声があったほか、市や事業所側に対して住民に向けた丁寧な説明、事業化に伴うメリット、デメリットといった賛否の判断材料提示などが求められた。

 

住民代表対象に説明会


 吉浜地区で太陽光発電事業を計画しているのは、福岡県福岡市に本社がある自然電力㈱(代表取締役・磯野謙、川戸健司、長谷川雅也)。これまでの計画では、同町吉浜の上野、大野地内の市有地と、釜石市唐丹町字上荒川の民地・自社所有地(合計面積約80㌶)に出力14・7メガワットの太陽光発電所2カ所を整備し、計約4万メガワットアワー(一般家庭約1万3000世帯の年間使用電力に相当)の発電を行うとしていた。
 この計画については、これまで同社が吉浜地区を中心に住民説明会、座談会を開催。予定地の一部が市有地であるため、市も戸田公明市長らが出席をして住民らに説明を行ってきた。
 しかし、住民からは自然環境や水源への影響、土木造成工事による土砂流出、大雨時の災害リスクなどを懸念し、署名提出に及ぶなど反対の声が続出。一方、地球温暖化の防止、住民サービスに必要な財源確保などの観点から事業促進を求める声もあり、賛否が分かれている。
 こうした中、同社は住民らから示された反対、懸念する意見をもとに、計画を再検討。見直し案をまとめ、この日の説明会で初めて住民側に示した。
 説明会は吉浜地区の全住民を対象に予定していたが、新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため、初回は吉浜地区公民館、各部落会、吉浜漁協の代表者と地元市議の13人に限定し、全員が出席。市側からは戸田公明市長、志田努統括監、新沼徹企画政策部長らが、自然電力からは太陽光事業部マネージャーの高田尚昌氏、エンジニアリング部の門中章二氏、太陽光開発部の岩川健太郎氏が臨んだ。
 戸田市長は「市としても、市の姿勢が明確でないことが住民の不安要素の一つと指摘を受け、前面に立って説明責任を果たしていく。市では人口減少に対応できる地域社会の構築と、地球温暖化の抑制が重要な課題だが、太陽光発電事業により、市内経済の振興、税収増加など、当市への多面的効果が課題解決につながることから、住民の皆さんに事業実施への理解をいただきたい。未来を担う世代にとって、最善の方策は何かを地区の皆さまと検討していきたい」とあいさつした。
 続いて、新沼部長が同事業に対する市の基本的な考え方、事業計画見直しの概要、今後の予定などを説明。
 このうち、市の基本的な考え方では、地球温暖化の抑止に向けた再生可能エネルギーへの転換が不可欠であることなどを挙げ、「市としては、事業の意義や工事計画の内容について地域住民に対して説明を行うこと、住民の理解を得るように努め、事業実施につなげたいと考えている」とした。
 また、仮に事業が実施される場合の事業管理としては、「事業実施に関する協定書と土地賃貸借契約書に、市が工事段階から発電所稼働後において事業内容を調査・指導することを明記し、市の指導等に従わない場合は、事業を停止または中止させることとする」などと、市の責任についても明確に言及した。
 その後、自然電力側が計画の変更案を提示。住民から寄せられた懸念の声を受け、より土木工事リスクを低減する計画に見直し、「大窪山のみで事業化が可能と判断した。大窪山の湿地帯を極力保全すべく、発電所規模を可能な範囲で縮小する」とした。
 荒金山では造成工事を行わないこととし、太陽光パネルの設置をとりやめ、連携変電所のみを設ける。
 太陽光パネルの設置は大窪山のみとし、ここに出力14・7メガワットの発電所2カ所を計画。事業予定面積は約98㌶と従前より広くなるが、希少植物保護のために湿地帯を避けるなど環境に配慮した配置とし、発電能力を従前の44メガワットから37メガワット程度に縮小する。年間発電量は3万2000メガワットアワーを見込む。
 大窪山は国立公園法の規定により、土地の造成工事は不可。同社ではパネル設置にはくい打ち工法を採用し、低木等の伐採は最小限にとどめる。また、大雨時に備え、栗石マットやしがら柵、植生土のうなどを活用し、土砂や濁水の流速・流出量の低下、土石流を防止する防災計画なども提案した。
 市、同社の説明に対し、出席者6人が発言。この中では、「吉浜は1次産業を柱としている家庭が多く、それを支えているのが吉浜川。この川の水源地に太陽光パネルを設置する事業は、住民に水不足への懸念を起こさせる」などと、複数人から反対の声が挙がった。
 反対者の一人は「反対はしているが、賛成している人を否定するものではない。最終的には住民が決めればいいと思うが、住民の意向をどう把握するかが心配」として、市の考えを求めた。
 戸田市長は「今後、説明会を必要な回数開催し、吉浜の方々にこのプロジェクトについて知ってもらい、その手順や市のかかわり方、市の総合判断としてどういうことを考えていくかなどを、皆さんと情報供給したうえで結論を出したい」と答えた。
 ほかの出席者からは「市はこの事業に関するメリット、デメリットを示してほしい。その方が部落会としても話し合いがしやすい」「変更計画に関し、丁寧に住民に説明をしてもらいたい」「市全体に利益があるのであれば、若い世代も恩恵を受ける。今後の説明では、こうした世代にも考慮し、最終的な判断につなげてほしい」との提言、意見が寄せられた。
 市は今後、新型コロナウイルスの国内感染が沈静化した段階で、住民説明会を開催する考え。広く説明を行う中で、今後の住民の反応が注目される。