新型コロナウイルス/飲食業界にも大打撃 売り上げ9割減の宴会場も 気仙

▲ 歓送迎会シーズンでにぎわうはずの居酒屋でも、宴会中止などによる影響が出ている=陸前高田

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴う自粛ムードの広がりで冷え込む消費。この影響は気仙の宴会場や飲食店にも及んでいる。本来ならば職場の歓送迎会などでにぎわう3月末から4月はじめの時期でも大人数の宴会がなく、売り上げが9割減となった宴会場も。団体予約のキャンセルに加えて新規予約もない状態で、感染拡大の収束めどがつかない現状に事業者たちも今後の見通しがつかず苦慮している。

 

繁忙期でもにぎわいなく

 

 宴会場はこの時期、大規模な歓送迎会でにぎわうが、今年は新型ウイルスの影響で静けさに包まれている。大船渡市内の宴会場では、3月23日から同月末まで、職場の送別会などで予約が埋まっていたが、北海道で「緊急事態宣言」が出た2月末あたりからキャンセルが相次いだ。
 宴会場の経営者は「震災の時はお客さんの励ましの声や再開の要望もあって頑張れたし、その後の復興需要もあったが、今の状態はゴールが見えず、かつてない痛手だ」と肩を落とし、「去年と比べれば売り上げは9割以上減っている。行政からの支援等がないとこの先の経営が厳しい」と話していた。
 歓送迎会シーズンの3、4月が1年で一番のかき入れ時となる居酒屋への影響も深刻だ。陸前高田市高田町の中心市街地に「陸丸」を構える県飲食業生活衛生同業組合陸前高田支部の佐々木浩支部長(58)も、同店の今年3月の売り上げは「昨年の半分」とする。
 送迎会などの団体予約は、多くがキャンセルに。3月最終週の土曜だった28日、普段なら込み合う午後7時〜8時台になっても、陸丸店内はしんとしていた。一方、27日の夜は利用を断るほどにぎわった。
 大人数での宴会はないが、数人規模での飲み会については「少しずつ戻っている感じはする」という佐々木支部長は、「県内でまだ感染者が出ていないというところが大きいのでは。それもいつまでの話か。時間の問題だと思う」と先を見据える。
 同支部には市内約30軒の飲食店が所属。政府による休校要請など、全国的な感染拡大防止対策が本格化し始めた先月初旬には、佐々木支部長も組合員から今後の相談を受け、日本政策金融機構による新型コロナウイルス感染症特別貸付についてなど、分かる限りの救済情報を伝えた。
 「お客さんが来ないのではと思っても、仕入れなどの準備をしないわけにはいかない。現金仕入れか、月締め支払いかは店によってそれぞれだが、支払いを待ってくれない相手もあるし、従業員を使っている店は給料のことも考えなければならない。手元に現金がないと不安だろう」と佐々木支部長は語る。
 店によっては、予約が入らないときは営業せず、できるだけ従業員に交代で休みを取らせるなどして対応しているという。
 こうした状況がいつまで続くか見通せないことから、佐々木支部長は政府への要望として「お金をくれなくてもいいから、せめて消費税をしばらくストップしてもらえたら店はだいぶ助かる」と声を上げる。
 大船渡市内のある居酒屋では、大人数での酒席はキャンセルとなり、少人数での予約がぽつぽつとある程度だという。店舗の代表は「連休中も店は開ける予定だが、果たしてどうなるか。お客さんが来ないからといって何もしないわけにもいかないので、この期間を新メニューの開発にあてることも考えている」と話す。
 住田町の住民交流拠点施設・まち家世田米駅内にあるレストラン「kerasse(ケラッセ)」は、2月の上旬、中旬は新たな運営体制への移行を行うために休業し、同23日からランチとディナーの通常営業が再開。同月1週間の売り上げ状況と比べ、新型ウイルスの影響が広がった3月は6割ほどにまで落ち込んだという。
 ランチは堅調に推移しているものの、ディナー時間帯は団体キャンセルが相次ぎ、歓送迎会シーズンの「かき入れ時」の客を見込めない状況が続く。それでも同店では、手指消毒用のアルコール剤設置や野菜を取るトング類の定期消毒など、感染防止策を徹底したうえでの営業を続ける。
 菊地陽介オーナーシェフ(42)は「今は新規事業者向けの融資を利用してしのぐことも考えている。日々一緒に頑張っている従業員の給料は遅らせずに支払う。こうした従業員の補償を何とかしてほしいというのが、今の切実な思い」と訴える。