春がすみの先には 令和初の大船渡市議選を前に①「選挙どころでは…」再び 新型コロナ感染拡大の影響色濃く

▲ 復興事業のハード整備を生かした持続可能なまちづくりが問われる大船渡市

 本来ならば、暖かさが増すに連れて熱を帯びる4年に1度の身近な選挙が、何かおかしい。任期満了に伴う大船渡市議選(定数20)は19日(日)の告示まで2週間を切ったが、選挙戦の展望を遮る春がすみが立ち込めたままでいる。一時は初の無投票がささやかれ、新型コロナウイルス感染拡大の影響が前哨戦に暗い影を落とす。候補予定者は当選を目指すだけでなく、有権者との向き合い方を模索しながら、令和初となる決戦への準備を進めている。現状と、今選挙で考えるべき地域課題などに迫りたい。(佐藤 壮)


変わりつつある選挙の風景

 

 「新型コロナの影響で、後援会組織を動かすことができない。4年前に比べれば、地域に入れていない」
 「基本的に公共施設も閉鎖されている以上、何もできないと思っていた。3月中は、選挙活動を一切していない」
 「事務所開きの時には換気を徹底したし、体温計も用意した。来ていただいた方に体調が悪い方がいないかも確認した」
 「自分が〝感染者〟という想定で最大限配慮しながら、周囲への感染防止を進めている」
 「地域回りをしていると『こんな時に選挙でいいのか』と言われる。積極的に歩ける雰囲気ではない」
 現職陣営からは、4年前とは異なる情勢に戸惑いや不安の声が聞かれる。新型コロナウイルス感染拡大の影響は、なじみの選挙風景をも変えつつある。
 4日現在、岩手県内での感染者は発表されておらず、市内では小中学校の新学期始業式や入学式も行われ始め、学校生活が再開の方向に進んでいる。しかし、5日には宮城県気仙沼市で感染者が出たとの発表があり、政府は緊急事態宣言の準備を進めるなど、感染拡大への危機感は日増しに強まる。
 今市議選は、東日本大震災以降では3回目となる。発生翌年の平成24年時は、小中学校のグラウンドには仮設住宅が並び、被災した事業所の多くがプレハブでの仮設店舗で営業していた。
 その時も各候補者は市内全体に漂う「選挙どころでは…」という民意を受け止め、支持を広げる活動を自重しながら難しい選挙戦に臨んだ。
 令和に入り、市内の仮設住宅は全て撤去された。それでも、今の自粛ムードは、8年前よりも強いものがある。

 

鈍さが目立った出馬の動き

 

 異例の展開は、新型コロナウイルスの影響によるものだけではない。過去行われた17回の市議選はいずれも、立候補者数が定数を上回り、競争選挙となった。しかし、今市議選を巡っては、告示まで残り1カ月を切っても、立候補表明者が定数に届かなかった。
 出馬表明者が21人となったのは、先月末。市制施行初の無投票は辛うじて免れそうな情勢だが、候補予定者の動きには一部で流動的な要素を残しており、戦いの構図が固まりきらないでいる。
 これまでに出馬を表明しているのは、現職14人、元職2人、新人5人の計21人。現職4人が出馬せず、今期限りで勇退する。
 新人の一人は「投票にはなってほしいと思っている。選ばれたということにならなければ、議員になってからの方が大変だと思う」と話す。現職陣営からは「本音を言えば、選挙は大変。でも、今は準備を進めるだけ」との声も聞かれる。

 

来年に迎える「節目」を前に

 

 来年は、三陸町との合併から20年、東日本大震災の発生から10年を迎える。本来は、今後の持続可能なまちづくりを見据え、目指すべき市政のあり方を訴える大事な選挙である。
 「みんな年をとって、回覧板を回す班長をできる人がいない」
 「これから大船渡の経済は、どうなるのか」
 「コロナ騒ぎのせいで、魚が取れない訳じゃない。今はとにかく、魚がいない」
 各陣営の後援会活動では、地域を回る先々でこうした声が寄せられる。復興の事業収束に伴う経済活動の縮小、人口減少、山積する地域課題や生活不安に向き合いながら、地域住民から期待や信頼を集め、支持を広げなければならない。各候補予定者は、多様な変化の波を受け止めながら、難しい戦いに挑もうとしている。