「切迫した状況」備えいかに 日本海溝・千島海溝の大地震津波推計

▲ 12・5㍍の高さで津波を防御する高田松原の防潮堤

あす震災9年2カ月

多重防災充実に生かせるか

 

 東日本大震災の発生から11日で9年2カ月を迎える岩手県などの沿岸被災地に対し、発生の確率が「切迫した状況」とされる日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震の津波推計高が内閣府から示された。ただ、調査対象の7道県のうち、本県分のみ浸水想定図の公表が見送られた。その対応に気仙でもさまざまな反応がある一方、多重防災のあり方を見つめ直し、復興事業を生かした備えの充実につなげるべき想定であることは間違いない。加えて、新型コロナウイルスの感染拡大を機に避難所運営マニュアルなどを見直す必要性も高まっており、官民一体となった防災意識の向上が求められる。

 

浸水想定公表求める声も

感染症対策の確立も急務

 

 東北から北海道の太平洋沖にある日本海溝と千島海溝沿いでは過去に繰り返し巨大地震が発生している。
 内閣府が津波高などの予測を見直した対象は、北海道、青森、岩手、宮城、福島、茨城、千葉の7道県。巨大地震は日本海溝(三陸・日高沖)、千島海溝(十勝・根室沖)を震源地に想定し、地震の規模を示すマグニチュードは日本海溝が最大9・1、千島海溝が最大9・3と推定している。
 津波高、浸水域については、東日本大震災同様、最悪の事態を想定。潮位は満潮位で、防潮堤は津波の方が高い場合、破壊されるとの前提で推計した。
 気仙両市の想定震度は6強、最大津波高は大船渡市16・2㍍、陸前高田市12・5㍍と推計され、それぞれ東日本大震災より低い。
 浸水図に関しては、6道県分がそれぞれ示されたが、岩手県分は「震災復興に影響しかねない」という県の要請を受け、公表が見送られた。
 震災で特に大きな被害を受けた陸前高田市は、市復興計画に基づき、広田湾に面する防潮堤の高さを基本的に12・5㍍と設定。中心市街地は震災クラスでも浸水しないようかさ上げを施し、海側から山側に南北を結ぶ広幅員の避難路「シンボルロード」も開通した。

 内閣府が示した推計グラフから想定される津波高は、震災時を下回る。この結果について市防災課は「太平洋に対して南向きに面する位置にあることから、宮古市以北の沿岸部よりも影響を受けにくい可能性があるのでは」と分析する。浸水想定域が示されていないが、局所的に津波がせり上がる一部を除き、防潮堤を越えない可能性が高いとの見方もできる。
 命の重みを教訓にまちづくりを進める市は、新型コロナウイルスが猛威を振るう中で災害が起きた際の対応も練っている。4月には、市内各避難所にマスクと手指用消毒液を設置。避難者については健康状態を確かめたうえ、他人と一定の距離を取るよう促す。発熱などの症状が確認された場合は、避難所内の別室で過ごすなどの方針としている。
 同課の中村吉雄課長は「震災で甚大な被害を受けたまちだからこそ、災害に対する備えは徹底していく」と気を引き締める。
 浸水域の想定非公表については「沿岸市町村の中で公表を見送るべきという声も聞かれ、その意見にも理解はできるが、公表が長引いても結果が変わるわけではない。必要な情報を粛々と公開することが重要だと思う」と求める。
 一方、浸水想定域の公表見送りについて「複雑な思い」と語るのは、大船渡市の戸田公明市長。「最悪を想定してリスクを考えるのは正解だとは思うが、『防潮堤、防波堤が壊れる前提でいきなり発表するのは説明が必要ではないか』という気持ちも分かる」とし、対応の評価には明言を避ける。
 今後の対応については、県が独自で行うとしているシミュレーション結果を待つ方針を掲げる。「もし、震災よりも浸水範囲が広がっているというのであれば、災害危険区域の見直しは必要となるだろう。しかし、ここが浸水域ではないから大丈夫ということではなく、高いところに逃げることが基本。大船渡はあくまでも、多重防災でいきたい」と話す。
 加えて市が重視しているのは、新型コロナウイルス感染拡大防止と避難所運営の両立。現実的には避難所運営は各自主防災組織が担う面が大きく、間隔を空けるといった対応周知にも力を入れる。