新型コロナウイルス──広がる影響と課題──⑩/減収深刻な観光関連業

▲ 仕切り板を置く窓口で、検温など対面式の健康チェックを行う社員

安全性PRし難局打破目指す


 新型コロナウイルス感染症の影響で、観光関連業が業績低迷の長期化に苦しんでいる。19日から感染拡大で自粛が求められていた都道府県をまたぐ移動が全国で解禁となり、これに合わせ本県では県外からの観光客の受け入れを段階的に拡大していく方針。ただ、事業者は「これまでに失ったお客さんを取り戻せるか」と、需要回復がいつになるのか見通せず、不安を募らせている。
 「万が一、岩手や気仙で感染者が発生したら、さらに敬遠されてしまうのではないか」。
 そう語るのは、貸し切りバスを運行している陸前高田市の㈲奥州交通の加藤隆史代表取締役(37)。現在も利用者減少の窮状を打破できず頭を抱える。
 3月の売り上げは、前年同月比で9割以上落ち込み、大打撃を受けた。収益の大部分を占めるスクールバスが、市内小中学校の休校に伴い運休となったのが要因で、貸し切りバスもすべてキャンセルとなった。
 その後、小中学校が再開し、平日6路線のスクールバスを再び走らせることとなったが、それでも4、5月の売り上げは5割減。今月も前月と同様の下げ幅で推移しているという。
 一般の貸し切りバス運行数は月間で最大30便ほどに上るが、緊急事態宣言解除後も予約が入らない状況が続く。この時期は、中学校部活動の遠征、対外試合などでも運行予約が入るが、新型ウイルスの影響で多くの大会が中止となったのも痛手となった。
 バスは28~55人乗りの計13台で維持費の負担が増すが、需要の低迷で最も重くのしかかるのは人件費。休業手当を支給して従業員を休ませた場合、国がその費用の一部を助成する「雇用調整助成金」は、国の本年度第2次補正予算で助成額拡充が決まり、加藤代表取締役は「非常に助かる」と話す。売り上げが半減した事業者に最大200万円を配る「持続化給付金」は、受け付けが始まった5月1日に申請を済ませ、同月中に受給した。
 毎年冬は移動の機会が減り、利用者数が落ち込む。「このまま需要回復をただ待つだけでは、冬を乗り越えられない」との危機感から、同社は感染防止策の徹底で安全性をPRし、誘客を目指す。
 国の補助金制度を活用し、座席などを除菌するスチームクリーナーの導入を計画。これまでも行ってきた車内の小まめな換気、消毒作業に加え、今後は安全対策を独自にまとめたチラシを座席裏の網ポケットに入れるほか、SNSに会社の専用ページを開設するなど情報発信を強化していく。
 一方で、従業員の健康管理にも万全を期す。検温と対面式の体調チェックは、基本的に朝夕の1日2回実施。日本バス協会がまとめたガイドラインに従い、米崎町の事務所窓口には飛沫(ひまつ)感染防止用の仕切り板を設置した。
 加藤代表取締役は「毎年のように利用いただいている団体客もいる。まずは、なじみの利用客を取り込めるよう、さまざまな手法で情報発信していきたい」と力を込める。
 移動自粛の緩和などで今後は社会経済活動のさらなる活発化が想定されるが、「V字」型の経済回復は見込みづらい。加藤代表取締役は「市も積極的に経済支援を検討しており、励まされる。この地域で雇用を守るためにも、中長期の視点で切れ目のない支援をお願いしたい」と訴える。