視点/吉浜地区太陽光発電事業の行方①

▲ 市民を対象に開かれた「吉浜地区太陽光発電事業に関する説明会」

計画案に賛否分かれる

 

 大船渡市による「吉浜地区太陽光発電事業に関する説明会」は6月19日から22日までの4日間、市内2会場で開かれた。民間事業者が三陸町吉浜地区の大窪山で計画する太陽光発電所建設事業を提案し、事業予定地の所有者である市は地球温暖化抑止などの観点から、これを推進する考えを示した。出席した市民からは強固な反対意見が多かった一方、事業推進を求める声も上がるなど賛否が分かれた。市は事業推進の姿勢を崩さなかったが、事業者と土地賃貸契約を結ぶかの最終的な判断には、さらなる住民理解が求められる。(三浦佳恵)

 

説明会で事業者側提示

住民の懸念受け変更

 

 太陽光発電事業を計画しているのは、自然電力㈱(磯野謙、川戸健司、長谷川雅也各代表取締役、本社・福岡県福岡市)。平成26年から荒金山の市有地で事業実施を検討し、市や吉浜地区内の代表者ら(地区公民館長、各地域公民館長、吉浜漁業協同組合)と土地の賃貸借契約にかかる手続きを進めてきたが、調査で荒金山は太陽光パネルの設置に不向きな地形と分かった。
 そこで、同山と大窪山の牧場跡地にそれぞれ太陽光発電所(出力14・7メガワット)を建設する計画に変更。造成工事が必要な荒金山では、市が土地の賃貸借条件に掲げる県の林地開発許可を得ることとし、防災対策を盛り込んだ施工を計画した。大窪山は自然公園法の規定で土地の造成工事ができないため、牧場跡地に太陽光パネルを設置することとし、いずれの現場でも工事中は濁水対策をとるとした。
 この変更案は、同社が昨年9月に吉浜と越喜来各地区で、10月から11月に吉浜地区内9地域で開いた説明会で示された。住民からは、地域の水源である吉浜川への影響や景観保全、土木造成工事による土砂流出、大雨時の災害リスクなどを懸念する声が寄せられた。
 こうした懸念は、地元内外の団体による反対運動に発展。このうち、地元住民有志の「荒金山・大窪山太陽光発電所建設に反対する会」は同年12月、吉浜地区内の288世帯651人を含む市民1372人分の反対署名を市に提出。市はこの事態を重く受け止め、同社に対して「現状下では土地の賃貸は難しい」と伝え、現在も土地の賃貸借契約は交わされていない。
 一方、賛成の動きも出ている。吉浜地区の千歳部落会は今年2月、「地球温暖化防止や住民サービスに必要な財源確保などのため、事業を実施すべき」と市に要望。3月には越喜来、吉浜両地区の住民有志らからなる「大船渡市の未来を考え、つくる会」が、市へ事業推進を求めた。

 昨秋の説明会で住民から寄せられた懸念や指摘を受け、自然電力は事業計画を見直し、今年3月27日に市が吉浜地区代表者(地区公民館、各地域公民館、吉浜漁協、地元市議)向けに開いた説明会で公表。市も事業に対する考え方を示し、出席者と意見を交換した。
 今回の説明会はこれに続くもので、初日と2、4日目は旧吉浜中学校、3日目は盛町のリアスホールで開催。4日間で市民160人が参加し、市からは戸田公明市長、志田努副市長、担当部課の職員らが、自然電力からは長谷川代表取締役や事業担当者らが臨んだ。
 3月と今回の説明会で同社が示した計画案は、吉浜地区の荒金山に連携変電所のみを設置し、市が所有する大窪山の牧場跡地(事業用地約98㌶)に太陽光発電所を建設するもの。
 発電容量は37メガワットで、年間総発電量の約3万5000メガワットアワーは一般家庭約1万世帯の年間使用電力量に相当。年間の二酸化炭素削減効果は、森林約3100㌶分と試算する。
 事業者は、同社と東京ガス㈱が設立した会社・プロミネットパワー㈱を業務執行者とする岩手三陸太陽光発電合同会社。開発、運営、建設、保守管理などは自然電力と同社グループが担う。
 事業期間20年間の地域経済効果は、地元企業への工事発注、運転期間中の維持管理、地域活性のための拠出、市税・賃料収入などによる総額約40億円を見込む。発電事業だけでなく、市の持続可能なまちづくりにも寄与する考えを示す。
 太陽光パネルは希少植物の生息が指摘される湿地帯を避け、くい打ち工法で配置。工事は支障木の除去や道路整備に限定し、濁水対策も図るとした。
 市側は、戸田市長が人口減少や少子高齢化の進行、減少傾向にある市税収入の諸課題を説明。「太陽光発電事業実施の意義」として、▽地球温暖化抑止への貢献▽未利用市有地の有効活用▽市税収入、市有地賃貸料で自主財源の確保▽建設工事、施設の維持管理に地元企業の活用▽事業者による地域づくりへの参画──などを挙げ、「その意義は大変大きい。皆さまの理解を得ながら実現をしていきたい」と、市民らに事業実施への理解を求めた。
 同社の計画案と市の考えに対し、出席した市民らの発言は賛否で分かれた。