地すべりの可能性調査 専門家ら予定地視察 吉浜での太陽光発電事業(別写真あり)

▲ 自然地理学の専門家らが大窪山の太陽光発電事業予定地を視察

 三陸の山と川と海をみまもる会(八幡諗子(つぐこ)世話人代表)と公益財団法人・日本自然保護協会(亀山章理事長)は19日、大船渡市三陸町吉浜の大窪山などで「大窪山の地形観察と学習会」を行った。同山では民間事業者が太陽光発電事業を計画しており、両団体は地形や地質の専門家らとともに現地を視察。太陽光発電所の建設予定地で懸念される地すべりの可能性や周辺環境を調査した。
 太陽光発電所は、市が所有する大窪山の牧場跡地(事業用地約98㌶)に計画。発電容量は37メガワット、年間総発電量は約3万5000メガワットアワー。市はこの事業に対し、地球温暖化抑止や自主財源の確保などを理由に推進する考えを示しているが、市民側は賛否が分かれている。
 今回主催した2団体は、国の防災科学技術研究所が公表する「地すべり地形分布図データベース」において、建設予定地周辺に明瞭な地すべり地形が記載されていると指摘。建設工事や太陽光パネル設置による地すべりの危険性を懸念しており、専門家を招いての視察と学習会を企画した。
 この日は視察、学習会を合わせて市民ら約40人が参加。講師は、自然地理学などを専門とする東北学院大学教養学部地域構想学科准教授の目代(もくだい)邦康氏と、同協会保護部の若松伸彦氏が務めた。
 前半は大窪山の視察が行われ、講師陣と参加者が分布図に記載されている地すべり地形の場所4カ所に足を運んだ。目代氏と若松氏は、建設予定地の地すべり地形分布図と実際の地形を見比べて状況を確認し、地質や植生などの周辺環境を調べた。
 視察後は、吉浜の中通手前みそセンターで学習会を開き、目代氏が調査の内容などを報告。目代氏は、「(建設予定地である)頂上付近の山の形態はなだらか。一般的には、そうした地形は地すべりによってつくられることが多い」としながらも、「地質は花こう岩。岩盤にもともと入っていた縦横方向の割れ目に雨水が染み込んで風化し、割れ目の周辺が残ることで階段状の地形になりやすい」と説明した。
 そのうえで、「全体的に見て、階段状になっている地形の場所があった。地すべり地形分布図の中では、地すべりの活動によってつくられたがけではないかという記号が付けられているが、花こう岩の割れ目に沿ってできている段の可能性がある」と指摘。
 ただし、地すべり地形で見られる湿地が存在していることから、「今の段階では断定できないが、花こう岩、地すべりのどちらも影響しているのではないか」とし、「地すべりの安全性という意味から考えると、山頂付近には新鮮な崩れた跡やちょっとした段差はあまりなく、割と安定している」との見解を示した。
 また、大窪山の生態系や地学的なシステム、牧場として利用してきた人間とのかかわりなどを踏まえ、「何かしらの人間の営みと、自然との関係性の中でつくられた文化的景観といえる」と高く評価。大窪山の花こう岩の地質や地形、気候の特徴などは、ジオパークの重要な資源に位置付けられることにも言及し、「こうした価値をなくすのは大きな損失になる」と強調した。
 参加者らは、質疑や意見交換も実施。大窪山の自然環境に理解を深めながら、保全のあり方を探った。