姿消すプレハブの臨時拠点 仮設商業施設の解体撤去進む 気仙両市
令和2年9月11日付 1面

東日本大震災の発生から11日で9年半を迎える。復旧・復興事業が最終盤の気仙両市では、仮設商業施設の解体、撤去工事が盛んに進む。新たな商店街やにぎわいの創出、地域経済の立て直しへ大きな役割を担ったプレハブの拠点の多くは、その面影が消えた。今後は仮設店舗跡地の土地再利用の行方に加え、仮設商店街形成時に生まれた記憶や交流をどう受け継ぐかも注目される。
きょう震災9年半
無償譲渡で「本設」活用も
陸前高田市米崎町松峰の仮設商業施設。現在、一部店舗を除いて解体工事が行われ、10月末までに建物の撤去を終える。
震災から8カ月後の平成23年11月、市内では第1号の仮設商業施設としてオープン。中華料理店、スポーツ用品店、理容店、コインランドリーなど7事業者が営業し、市民生活を支えた。
入居グループの代表を務めた㈲食彩工房の齋藤政英代表取締役(67)は「市内第1号として整備してもらい感謝している。津波であれだけの被害を受け、その中でオープンに至り、当時は感動した」と思い起こす。
同社は仕出し料理、宴会場の運営などを手がけた。宴会場は100人収容できる規模で、「仮設でも満足してもらえるように」とグループ補助金を活用するなどして設備面も整えた。「オープンから1年半程度は毎日宴会場の予約が入っていた。飲食店、理容室、学習塾などが入店し、地域の利便性向上へ一定の役割を果たせたと思う」と受け止める。
26年に高田町内に宴会場「海浜館」の再建を果たした。今年は新型コロナウイルスの影響で利用客が激減し、齋藤代表取締役は「仮設の時は予約をお断りするほど需要が高い時期もあった。今年はコロナ禍で非常に厳しい状況。なんとか活気が出てくれればいいのだが」と語る。
仮設商業施設は、津波で店舗などを失った事業者の早期の営業再開を支援するため、独立行政法人・中小企業基盤整備機構が整備したもの。多くは震災で浸水被害を受けた被災跡地か、これまで商業施設がなかった高台で土地確保が進められた。
陸前高田市によると、市内では135施設が整備され、最大で338事業者が入居した。当初の利用期限は5年だが、本設再建の意思があるものの、再建先の土地造成や建物の工事が終わらないなどの理由で期限内に退去した場合、事業の空白期間が生じかねない事態を踏まえ、市は再建への「移行期間」の位置づけで利用期限を延ばし、30~31年度中に退去が進んだ。
入店事業者退去に伴い撤去されるのは45施設で、すでに28施設が撤去済み。残る17施設も本年度内を目指して解体される。期限後、市から譲渡を受け、本設の位置づけとなったのは79施設となっている。
一方、大船渡市内では51施設合わせて264区画が整備され、平成25年のピーク時には257事業者が入った。「夢商店街」「屋台村」「プレハブ横丁」など、23年の完成時は県内外から注目を集め、震災直後の来訪者増や経済回復に大きく貢献した。
事業者に譲渡したのは24施設。撤去済みは25施設で、大船渡町内の1施設の工事が完了すれば復興のために整備したすべての仮設商業施設の処分を終えることとなっている。
震災から10年目を迎え、無償譲渡を受けた気仙の各店舗だけでなく、本設再建した事業者からも「仮設の時よりも売り上げが落ちている」といった声も聞かれる。
仮設商店街では狭いスペースでの営業を強いられた一方、店舗集積による相乗効果を生かし、地域全体に活気を生み、支援者や県外在住者との交流も生まれた。こうした震災直後の活気を呼び起こし、今後のまちづくりにつなげる視点も求められている。