絵画愛好者の集いの場に アトリエの改築目指す 故・畠山孝一さんの美術館
令和2年9月13日付 7面
陸前高田市広田町平畑の画家で、今年2月に86歳で亡くなった畠山孝一さんの実家に開設された美術館「三陸館」の運営に関わる三陸館協議会(佐々木幸悦会長)の事務局は、同館のアトリエを改築し、絵画の愛好者らが集えるコミュニティースペースを作ることを目的にしたクラウドファンディングに挑戦している。畠山さんの足跡を語り継ぐとともに、気仙の美術文化を盛り上げるきっかけにつなげたい考えだ。
運営主体がクラファンに挑戦
昭和8年生まれの畠山さんは、30代半ばに交通事故で重傷を負ったあと、漁師をやめて画業に専念。200~500号クラスの大型キャンバスに、「岩」をテーマにした油絵を描き続けた。
同48年に地元のアートアカデミー・彩光会に入会し、創造美術会主催の公募展「創造展」で初入選。50年には、美術界で有名な国内公募展「新制作展」(新制作協会主催)に初出品して入選を果たし、その後は東京の個展や海外の展覧会への出品のほか、地元の公共、教育施設への作品寄贈も行ってきた。
平成23年の東日本大震災後、創作意欲を失ってしまう時期もあったが、NPO法人・SET(三井俊介代表理事)を通じて研修に訪れた大学生らと出会い、交流したのがきっかけで「絵を見てもらいたい」と活力を取り戻したという。ゆかりの深い有志らが同協議会を立ち上げ、築200年余りの歴史がある畠山さんの実家のアトリエなどを美術館として登録し、27年3月にオープン。親戚にあたる畠山ミキ子さん(64)が事務局長となって運営している。
週1回定期的に開館し、予約にも対応。これまで気仙内外から1200人余りの来場があり、繊細かつ力強い筆致で描かれた雄大な自然の絵が、老若男女問わず多くの人を魅了した。
しかし、病状の悪化で畠山さんが亡くなったあと、同館に残された数々の絵画は個人の所有物ではなく「美術品」となり、金銭面や保存の観点から手放さなければならない状況に。
ミキ子さんは「三陸館から作品がなくなる前に」と、畠山さんが生きた広田で絵を語り継ぐ方法を模索。畠山さんを慕っていたSETの小林敬志さん(28)も賛同し、法人で復興庁から委託を受けている「被災地企業の資金調達等支援事業」を活用し、今回のクラウドファンディングを提案した。
インターネットのクラウドファンディングサービス「CAMPFIRE(キャンプファイヤ)」を利用して資金を募る目的は、畠山さんのアトリエを改築し、誰もが集えるコミュニティースペースにすること。窓側へのサンルーム設置と、壁の色の塗り替え、照明器具の設置に資金を活用し、来訪者が心地よく会話できる空間の創出を目指す。
同スペースには、畠山さんの作品のほか、創作活動の際に使われた画材などを飾る予定。来年3月に新生・三陸館としてオープンし、畠山さんのこれまでの足跡を振り返るとともに、アートの魅力を広く発信する場にしたい考えだ。
クラウドファンディングのプロジェクト期間は今月19日(土)となっており、目標金額150万円に対し、12日現在の支援総額は90万円余り。支援は一口3000円から可能で、支援金額に応じて畠山さんの画集冊子や民泊つきツアーなどのリターン(返礼品)が用意されている。
小林さんは「初めて孝一さんの作品を見たとき、造詣が深くない自分でも鳥肌が立ったのを覚えている。孝一さんの人柄も知っているからこそ、これらの作品を描いた人のことを伝えていくことの価値は大きい」と力を込める。
ミキ子さんは「古民家を美術館にするという試みは、きっとこれからの陸前高田市、ひいては気仙、沿岸の芸術発展のヒントにつながると信じている。画家同士のつながりができ、みんなの夢が広がるような場所をこの広田につくりたい」とプロジェクト成功を願っている。
プロジェクト詳細は同サービスの特設サイト(https://camp-fire.jp/projects/view/315151)に掲載。