若き移住者 夢への〝船出〟 大阪出身の男性2人が就業
令和2年9月24日付 7面

東日本大震災後、担い手不足が課題の陸前高田市の漁業界に、大阪府出身の若者2人が飛び込んだ。仕事初日の23日、広田湾内の養殖漁場を見学し、夢に描いてきた漁業者への新たな一歩を踏み出した。「格好いい漁師になる」「一日も早く仕事を覚えられるよう全力で頑張る」。震災で甚大な被害を受けた陸前高田市の基幹産業を支える新たな担い手として、一からノウハウを磨いていく。
漁業支える担い手へ意欲
2人の若者は、大阪府大阪市出身の大野広貴さん(25)と同府松原市出身の布部司さん(26)。2人は友人同士で、今月上旬、陸前高田市に転居した。
23日は、小友町の両替漁港で漁船に乗り込み、2人を受け入れるマルテン水産の千田勝治代表(72)の案内で、カキの養殖施設やワカメの養殖場を見学。小友地区のカキは全国でも高品質で有名で、千田代表から時間をかけて成育するこだわりなど説明を受け、期待に胸を膨らませた。
祖父や知り合いの親が漁業関係の仕事に就き、もともと漁業に関心があった2人。大野さんは飲食店で、布部さんは不動産会社で働いていたが、新型コロナウイルスの感染拡大を背景に仕事を辞め、漁業就業への道を模索してきた。
修業する受け入れ先を探す中で、本県で新たな担い手を育成する「いわて水産アカデミー」が開講していることを知った。陸前高田市や広田湾漁協の仲介で受け入れ漁家が見つかり、移住を決意した。
来年3月までは週6日、マルテン水産の従業員として勤務する。来春からは同アカデミーに通い、漁業に関する知識や技能を学ぶ計画を立てている。
千田代表は「漁業の厳しさも経験することになると思うが、夢を持ち続け頑張ってほしい」とエールを送る。
市によると、市内漁業者数は平成30年時点で601人で、うち60歳以上が398人と全体の65%を超える。高齢化に加え、東日本大震災発生により、漁業者数は震災前の平成20年度よりも306人減と担い手不足が深刻化している。
縁もゆかりもない地で始める未経験の仕事だが、大野さんは「楽しみしかない」ときっぱり。「実際に養殖施設を見せてもらい、実感がわいてきた。自分と同じように漁業を始める若い人が増えるよう格好いい漁師を目指す。みんなで陸前高田を盛り上げたい」と意欲十分だ。
布部さんは移住してから、震災後の復旧工事が今も続いていることを知った。「9年以上たってもまだ復興の途上で、防潮堤の高さにも驚いた。一日も早く慣れるよう全力で頑張る。この地域で働きながら人間的にも成長できればと思っている」と話した。