在りし日の音色を再び 越小に被災トランペット戻る 震災物語る貴重な品に
令和2年9月25日付 7面


いわてブラスアンサンブルの演奏会では、被災トランペットの音色も披露された
大船渡市三陸町越喜来の越喜来小学校(鈴木直樹校長、児童81人)に、平成23年の東日本大震災で被災した旧同校校舎から流出したトランペットが9年6カ月ぶりに戻ってきた。発災の翌日、当時の同校校長が旧校舎近くの海岸から回収、修復をして保管していたもの。戻ってきたトランペットは、同校で開かれた金管五重奏のコンサートで特別に奏でられ、子どもたちを前に在りし日の音色を響かせた。同校では「震災を物語る貴重なトランペット」として、今後展示するとしている。
津波で旧校舎から流出
海の近くに位置していた旧越喜来小校舎は、震災の大津波で被災。児童や教職員らは避難して無事だったが、校舎は全壊した。
当時の校長・今野義雄さん(64)=立根町=は震災発生の翌日、校長室に保管していた書類を探すため、ほかの教職員らとともに校舎に向かった。その際、海岸に山積していたがれきの中から、見覚えある楽器ケースが目に入った。音楽室にあったトランペットだった。
ケースは砂まみれで、塩水をかぶってふやけていたが、今野さんは「震災の記憶を伝えるものになる」と思い、回収。ケースを開けてみると、中のトランペットにも細かい砂が入り込んでおり、バルブは動かなかった。
今野さんはトランペットを分解して洗浄。砂を取り除き、油を差すなどして、ようやく音が鳴るまでに復旧させた。しかし、同校の備品としては再登録できず、いったん預かることとした。
当時の越喜来小は、校舎が地震で被害を受けた崎浜小とともに、被災を免れた甫嶺小校舎を間借りして学校生活を再開。24年4月にはこの3校が統合し、新たな越喜来小としてスタートを切った。
被災したトランペットは、過去に一度だけ演奏されたことがある。統合後の同校校長だった今野さんが「地域を元気づけたい」と、学習発表会の場で児童らによる楽器演奏を企画。当時の児童らがトランペットの練習を重ね、保護者や地域住民らに披露したという。
トランペットはその後も今野さんが保管してきた。こうした中、「新校舎になった越喜来小に返すべきでは」と、震災からちょうど9年6カ月を迎えた今月11日、同校に託した。
その1週間後の18日、同校で「いわてブラスアンサンブル金管五重奏」の演奏会が開かれた。この中で、鈴木校長が被災したトランペットを紹介すると、出演者らの計らいで演奏に用いられることとなった。
トランペットからはやわらかい音色が響き、演奏家たちも「いい音」と評価。同校の校歌や人気アニメのテーマソングなどが披露され、児童たちも楽しそうに聴き入った。
6年生の石澤蓮君は「津波で学校が流されて、浜で一つだけ残っていたトランペットを吹いてもらったら、とてもいい音が出ていて驚いた。皆さんのチームワークがあったからこんなにきれいな音が出せたんだと思った」と感想を寄せた。
これまで、被災した旧校舎から回収され、現在の越喜来小に残るのは、石の校門と学校沿革誌のみだった。新たにトランペットが加わり、今野さんは「震災の記憶を呼び起こすものとして、防災学習などに役立ててほしい」と語る。
鈴木校長は「震災から10年目にして戻ってきたものであり、本校にとって貴重な資料。校内に展示したい」と話していた。