ふるさとの風景を一冊に 陸前高田の熊谷さん

▲ 完成した画集を持つ熊谷さん

陸前高田内外の風景画などの作品が収められた

 陸前高田市高田町の画家・熊谷睦男さん(86)が、昭和25年以降に描いた気仙の風景画などをまとめた画集『回想・ふるさとの風景─絵で観る陸前高田と気仙界隈・鎮魂譜─』(A4判、148㌻)を制作した。東日本大震災発生から10年の節目を迎えるのを前に、大津波や時の流れの中で失われた風景や、心に残る情景を一冊に集約。画集は熊谷さんの自宅で閲覧できる。

 

震災から10年を前に画集制作

 

 熊谷さんは、同市で小中学校長や教育長、芸文協会長などを歴任。その傍らで絵を描き続けて国内外の公募展に出品し、フランス・パリで著名な国際展の「ル・サロン」や「サロン・ドトーヌ」、東京で毎年開かれる日本・フランス現代美術世界展などで多数の入選、受賞歴を持つ。
 現在も展覧会への新作出品を続けつつ、気仙のアートアカデミー「彩光会」会長や地元絵画教室での講師などを務めながら、ふるさとでの美術普及、後進育成に力を入れている。
 画集は、来年3月11日で大震災発災から丸10年の節目を迎えることを受け、「忘れられていく過去の陸前高田の風景を後世に伝え残したい」と制作。製本のみ業者に頼み、各ページの編集や印刷作業はすべて熊谷さんが個人で行った。
 収録されている絵は、熊谷さんが高田高校在学時代から今年まで描いてきた油絵やスケッチ合わせて100点余り。▽氷上山▽高田松原▽気仙川▽奇跡の一本松▽佇まい▽気仙界隈処々徒然▽鎮魂の譜──の全7章で構成した。
 氷上山山頂から望んだ広田湾の鳥瞰(ちょうかん)図にはじまり、熊谷さんが通った地元の学校の木造校舎や約7万本のマツが立つ震災前の高田松原の風景、奇跡の一本松、復興事業で変化するまちの一コマ、港や山の四季折々の景色などが、熊谷さんの熟練の画力と豊かな色彩でよみがえる。
 また、最終章には、熊谷さんが震災以降手がけているシリーズ作品「延年の舞・老女」も収録。大津波の犠牲者や遺族らに対する追悼の思いも込めた。
 各章冒頭には、絵で表現された場所にまつわる歴史や言い伝えなど解説も添えてストーリー性を持たせ、読み物としても楽しめるよう内容を充実させた。
 熊谷さんは「心の中にある風景は、言葉だけではなかなか相手に伝わっていかない。画集を残すことで、美しい気仙の風土を後世に伝えるとともに、絵を見た地域の方たちが昔話に花を咲かせるようなきっかけをつくってほしい」と願っている。
 画集は6冊制作。熊谷さんの自宅で閲覧することができる。
 熊谷さんは「今後、購入希望者が増えた場合、増刷して出版することも考える」という。
 問い合わせは熊谷さん(℡54・3386)まで。