「怠け」をいさめ幸福運ぶ 吉浜のスネカ 今年も 大船渡
令和3年1月16日付 7面

大船渡市三陸町吉浜地区に伝わる小正月の奇習「吉浜のスネカ」は15日夜、地区内で行われた。国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録されてからは3度目。新型コロナウイルス感染防止のため、スネカに扮(ふん)する地域住民を減らし、訪問先も子どもがいる世帯だけに絞った。規模縮小しながらも、奇怪で恐ろしい形相のスネカが家々を訪ね歩く伝統をつないだ。
感染防止を優先
規模縮小も伝統つなぐ
この日は、吉浜スネカ保存会(岡﨑久弥会長)を中心に6人が奇怪な姿に〝変身〟。例年は地区内の約400世帯を訪ね歩くが、今年は吉浜こども園に通う子どもが暮らす家庭など約20世帯とした。
このうち、造園業の寺澤幹嗣さん(48)宅では、スネカが鼻を鳴らしながら近づき「手洗いしているか」「いい子にしているか」などと迫った。長女のつぐみちゃん(6)、長男の湧李ちゃん(3)は「言うこと聞きます」「1人でご飯食べます」 「いい子にします」 などと、大声で泣き叫びながら約束した。
幹嗣さんは「悪いことをすると『スネカが来るぞ』と言い聞かせるようにしている。子どもたちは元気に成長してほしい」と話し、願いを込めた。
スネカは、子どもや怠け者をいさめる一方、里に春を告げ、五穀豊穣や豊漁をもたらす精霊とされる。いろりのそばで怠けている者のスネの皮を剥ぐという「スネカワタグリ」が語源とされ、江戸時代から約200年にわたって続けられていると伝わる。
平成16年に国の重要無形民俗文化財に指定。30年には、「来訪神:仮面・仮装の神々」として、全国7県9件の来訪神行事とともに、ユネスコの無形文化遺産に登録された。
登録によって関心が高まり、昨年は出発場所などには多くの見物客らが集まった。本年度も「密」が予想され、保存会では昨年から対応を協議してきた。
その結果、本年度は一般の見学・撮影は認めず、一部報道機関などにとどめる非公開で実施。さらに、例年スネカを担ってきた地元中学生の参加も見送り、昨年は20数体が各地を回ったが、今年は3分1に縮小した。
スネカは家の中には入らず、玄関先での来訪にとどめ距離を確保。玄関先で家主が問答で対応し、家に入らせないのが、本来の姿だったという。
就任1年目の岡﨑会長(46)は「日々感染者数が増え、一時は中止まで考えた。対策として家に入らず、本来のスネカの姿に戻る。スネカを新しい形として伝承、守ることができた。(来年は)コロナが収束するか分からないが、昔のようにスネカができるように早くなればいいと思う。家内安全、大漁、五穀豊穣、子どもたちの健やかな成長を願いたい」と話していた。