各界リーダーに聞く/東日本大震災10年─復興の現状と課題─① 大船渡商工会議所 米谷春夫会頭(73)

市街地に集客の〝磁石〟を


 ──東日本大震災から3月で10年を迎える。市街地再生や商業施設の再建などを振り返り、率直な思いを。
 米谷 当初描いていた街並みは、ほぼ出来上がったと思っている。おおふなと夢商店街やキャッセン大船渡の配置も、大変良いものであり、大船渡の方々の復元力には敬意を表したい。
 ただ、商いを力強く進めていくためには、まだまだ不足していると感じる。昔と違って、住居と店が一体ではない。どういう風に商店街に活力をもたせていくのかには、課題が残っている。
 大変な試練の中で、商工会議所の職員にも地域経済を支えていただいた。震災が要因と考えられる退会が約240事業所あったが、その後に新たに入会したのは420事業所に上る。いずれは将来大きく成長し、大船渡の核になる事業所も育っていくのではないかと、楽しみにしている。
 ──マイヤの経営者としても、復旧・復興に向き合い続けた10年とも言えるのでは。自身が思い描いていた姿に近づいたか。
 米谷 無我夢中にやってきたが、不安も抱えていた。まちがどこまで復興できるのかと。その中でも、私たちの商売は「ライフライン」という認識を持ち、地域が再生するために必要な業種という思いでやってきた。
 一方で「事業の再構築」というテーマもあった。多層階の総合量販店はやめ、食品スーパーに特化していこうと。みなさんの支援もあって、何とか成功・転換できたと思っている。
 ──大船渡の市街地は、商業施設の整備が落ち着きつつある。今になって浮上してきた課題は何か。
 米谷 きれいな街並みはできたが、集客は別。集客の〝磁石〟となる武器が足りないと思っている。大船渡に行こうと思う施設がまだ少ない。これは、物販・観光も含めて考えなければならない。
 地域経済においても、気仙広域共通の課題と感じているが、気仙を訪れる方々を増やしていかないといけない。三陸沿岸道路ができたことで、地域間の時間的な距離も短くなっている。わざわざ足を運んで気仙に行こうと思わせる地域間競争に負けないまちづくりが必要。インターネットで何でも買える時代の中でも、〝リアル〟の店舗に引きつけるものも持たないといけないのではないか。
 ──復旧・復興から、持続可能な地域社会への比重が高まっている。商工会議所という地域経済団体にとって、これまでと変わらない役割、今後担うべき新たな役割があるとすれば何か。
 米谷 商工会議所の使命は、主に二つある。一つは中小企業の経営を支えること。そしてもう一つは、活力のある地域にしていくこと。職員には「やれることはなんでもやる」と強調し、職員もそれに応え、一生懸命がんばってきた。さらにプラスすることといえば、提案力では。「こうしたらいいのでは」「業態転換もあり得ますよ」とか、そういった動きも出てくれば素晴らしい。
 今、時代の大転換期を迎えている。デジタル化社会をもっと急速に進めなければならない。もう、顔を合わせて会議をしなくてもいい価値観に変わりつつある。また、巣ごもり需要が高まり、家庭でおいしいものを食べる流れが強まっている。それに伴い、家族の絆が深まっている。そういった時代に対して、どう対応するか。事業所が適切な手をどう打つかが、重要になっている。
 ──陸前高田、住田の商工団体と手を取り合い、高規格幹線道路の要望を行った。ILC(国際リニアコライダー)の誘致運動にも積極的な姿勢を示している。改めて、今後の気仙の展望を。
 米谷 高規格幹線道路は、口だけで「あればいい」というだけでなく、しっかり議論のテーブルにあげるべき。DMO(観光地域づくり法人)も気仙では必要であり、その働きかけもしたい。観光面をハード、ソフト両面で考える必要がある。
 ILCの誘致実現は、気仙にも大きな波及効果を与える。大船渡港が資機材の荷揚げ港となることによる効果や、まとまった土地を生かした企業立地、林業を生かした建築など、2市1町がそれぞれメリットを享受できるよう、情熱を注いでやっていくべきだ。(聞き手・佐藤 壮)