名古屋、松江に教訓発信、「備え」の重要性伝える、震災10年を前にオンライン行事

▲ パネルディスカッションで名古屋、陸前高田両市の今後の交流の可能性などを述べた千葉さん

 東日本大震災発生から10年を前に、陸前高田市への復興支援などで絆を育む愛知県名古屋市や島根県松江市と陸前高田市をリモートで結び、防災や今後の交流のあり方を探るオンライン行事が7日、それぞれ開かれた。陸前高田側は市職員や市民らがこれまでの支援に感謝するとともに、震災から得た教訓を発信した。

 

今後の交流も探り合う/名古屋市・シンポ

 

 陸前高田市と友好都市協定を結ぶ名古屋市は、オンラインシンポジウムを開催した。戸羽太市長による基調講演や河村たかし名古屋市長、陸前高田市への派遣職員を交えたパネルディスカッションがあり、発生が懸念される南海トラフ地震への備え、盛んに交流する両市の今後の展望を考え合った。
 パネルディスカッションでは、両市長とこれまでに派遣された名古屋市職員、現在派遣中の職員計6人がパネリストとして出演した。
 昨年春から観光交流課に派遣されている観光交流主査・千葉斉昭さん(44)は、両市の交流事業に関する企画・調整などの担当業務や陸前高田の魅力を紹介。「陸前高田では6次産業化に向けた官民連携の取り組みなど、面白い動きがたくさん起きている。本年度は市民団による相互交流も行われており、交流の幅は今後もどんどん広がっていく」と述べた。
 戸羽市長は「東日本大震災から10年 名古屋市との絆」と題して講演。津波被害の状況や名古屋市からの支援、交流の歩みを紹介しながら、「伝えたいのは、万が一災害が起きた時に『あの時もっとこうしておけば良かった』などと後悔しないようにしておくこと」と備えの重要性を説き、「復興の前に人の命をどう守るかが最も重要で、津波復興祈念公園をそうしたことを一緒に考える場としたい。今後の相互交流の中で、ぜひ名古屋の人にも足を運んでほしい」と呼びかけた。
 締めくくりに、愛知県の鍵盤ハーモニカ奏者・吉田絵奈さんが、陸前高田市の被災マツで作った鍵盤ハーモニカの演奏を披露。シンポジウムの様子はYouTube(ユーチューブ)でライブ配信された。
 名古屋市は震災後、陸前高田市の行政全般を丸ごと支援する取り組みを展開。これまでに職員延べ約250人を派遣し、本年度は短期を含めて12人が陸前高田市で勤務している。

 

遺族らあの日を振り返る/松江市・講習会

 

遺族として経験した震災の教訓を伝えた淺沼さん

 松江市の松江ライオンズクラブ(持田幸治会長、LC)は、リモート講習会を開き、津波で大切な人を亡くした遺族や当時の高校生があの日を振り返った。
 震災で長男を亡くした「陸前高田『ハナミズキのみち』の会」代表の淺沼ミキ子さん(57)=竹駒町=は、遺族としての耐えがたい悲しみや苦しみを切々と語り、「大切な人や自分の身の回りにどんな災害が起こりうるか調べ、避難する方法を話し合ってほしい。大切な人と大切な日々を重ねていって」と優しく語りかけた。
 国道45号から市中心部を通り高台へとつながる主要避難道「シンボルロード」に、ハナミズキを植える活動の経緯も紹介。「ハナミズキのみちをたどって避難すれば2度と同じ悲しみや苦しみが繰り返されることはない。亡き人たちの思い、震災の教訓を伝承していきたい」と決意を伝えた。
 震災当時、高田高2年だった会社員・藤江未祐さん(27)=高田町=は、震災当日の避難の様子やその後の学校生活を回顧。「『災害が起きたらどこに逃げるべきか』と常に考えるのが習慣となった。今一緒にいる人たちとの生活、周囲の人への感謝を忘れずにいてほしい」と呼びかけた。
 リモート講習会は、若い世代の防災意識高揚を目的に、間もなく震災から10年となる陸前高田から教訓を学ぼうと企画。陸前高田ライオンズクラブ(遠藤健司会長)が協力した。
 松江LCは昨年11月に陸前高田市内で市職員や市民へのインタビューを行い、講習会の中でその様子も上映。松江市会場では現役高校生らが参加した。
 藤江さんは「震災前後で災害への備えに対する考え方が変わった。松江の高校生に少しでも自分たちの経験が生かされれば幸い」と願った。