輝き放つ産業復興の象徴 〝新夜景〟完成から1年 太平洋セ大船渡工場内など

▲ 夜間も輝きを放つバイオマス発電所と川口橋(撮影協力・太平洋セメント㈱大船渡工場)

 東日本大震災の発生から、きょうで9年11カ月。復旧・復興事業の進展によって、街並みは整い、地域経済を支える新たな事業展開も生まれた。大船渡市赤崎町に構える太平洋セメント㈱大船渡工場(服部誠工場長)の敷地内に整備された大船渡バイオマス発電所は、営業運転から1年が過ぎ、順調に稼働を続ける。夜に浮かび上がる輝きは、甚大な被害から立ち上がった産業の復興を照らす。

 

震災きょう9年11カ月

 

震災復興を支えてきた5号キルン。昼夜問わず稼働を続ける(同)

 大船渡バイオマス発電所は、同社と電力供給会社のイーレックス㈱=本社・東京都=が共同出資し、平成28年8月に設立した大船渡発電㈱が運営。翌年9月に着工し、昨年1月から営業運転を始め、同29日に竣工式が行われた。
 震災の津波で被災、休止した大船渡工場内の発電所をバイオマス発電所として再建。工場内の電力として利用するとともに、売電事業にも参画している。
 発電出力は国内最大規模の75メガワット、年間発電量は約52万メガワットアワーで、一般家庭約11万9000世帯分の年間電力消費量に相当する。「再生可能エネルギー固定価格買取制度」を活用し、発電した電力は全量をイーレックスへ売却し、同工場が必要分の電力を購入している。
 主な燃料は、パームヤシ殻と、パームオイル搾油工程で廃棄されていたパーム空果房(くうかぼう)。マレーシアやインドネシアから船で輸入し、ボイラー内で燃焼させる。発生熱で水を蒸気に変え、タービンを回転させて発電機を作動させ、電気を生み出す。
 年間約30万8000㌧の二酸化炭素削減に貢献。夜間には設備が照明によって輝き、新たな〝工場夜景〟としても関心を集める。
 同工場では平成22年9月から10月にかけ、大船渡港に入った客船「飛鳥Ⅱ」を歓迎しようと、設備照明の一斉点灯を行った。当時と比較しても、工場内はもちろん、大船渡町内の光も増え、復興を実感できる。
 震災では、工場施設の約7割が被災。同社従業員らは高台に避難し、暗闇の中で身を寄せ、寒さをしのぎながら一夜を過ごした。
 主要地方道より東側の高台に位置する5号キルンを生かし、23年5月から、工場内に流れ着いた土砂や被災地で撤去したがれきを焼却。がれきは26年3月までの間、大船渡、陸前高田などの県内3市2町から受け入れ、約100万㌧を処理。建設資材に欠かせない本業のセメント生産とともに、各種事業のスピードアップに大きく貢献してきた。
 昨年3月には、工場のそばに架かる新川口橋が完成。大船渡町内の市道も整備され、この1年で同町の中心市街地から赤崎町や三陸町綾里方面に移動する際の利便性が高まった。行き交う車両の光の筋や、大船渡町側の建物の照明が、港湾周辺に輝きをもたらす。