震災後の出会いに感謝 「面影画」描いた黒沢さん(埼玉出身)
令和3年2月13日付 7面

埼玉県秩父郡小鹿野町出身で、東日本大震災後の津波で家族を失った陸前高田市などの遺族に亡き人の肖像画「面影画(おもかげが)」を贈り続けたイラストレーター・黒沢和義さん(67)=東京都在住=が10、11の両日、同市を訪れ、面影画の依頼者らと再会した。当時の支援活動が縁でつながりをもった地域住民とも対面してこれまでの10年を振り返り、「出会えて良かった。人生を大きく変えてくれたみなさんに、これからもお礼を言い続けたい」と再訪を約束した。
制作依頼した遺族らと再会
黒沢さんは、震災後の平成23年6月5日から9月20日にかけて、津波で犠牲となった人やペットの絵、面影画を描くボランティア活動を展開。当時、避難所となった高田町の特別養護老人ホーム高寿園敷地内にテントを張って生活し、遺族の言葉や被災写真などをもとに、犠牲となった126人と18匹を描いて依頼者に贈った。
翌24年には、面影画や遺族の話、黒沢さんの活動の記憶をまとめた本『面影画 私はここにいます』を出版。その後も何度も同市に足を運び、絵の依頼者や同園関係者の話に耳を傾け、寄り添い続けている。
昨年4月にも同市を訪れる予定だったが、新型コロナウイルスの感染拡大で断念。今年も見送らざるを得ない状況だったが、PCR検査を受け、陰性を確認したうえで訪問した。
10日は、同園や奇跡の一本松、中心市街地の飲食店などを訪問し、面影画制作を依頼された数人の遺族と会ってこの10年を振り返った。月命日の11日は、震災直後初めて同園を訪れた際、黒沢さんのボランティアの申し出に応じた同園元事務主任・佐々木晃さん(67)=高田町=と対面し、思い出話に花を咲かせた。
気温が高い時期と重なったボランティア期間。「あの時はとても暑かったね」と話す佐々木さんに、「炎天下の日は厳しかった。3カ月間よく活動できたな、と今でも思う」と黒沢さん。「大事な人やペットを失った人、一人一人とちゃんと向き合い、一日1枚描いて渡すんだ、という思いで毎日を過ごした」と振り返る。
黒沢さんは「絵を見て『そっくり』と笑ってくれた人や、写真も何もかも失い『絵が残って良かった』と喜ぶ人、『写真は無理だけど、絵になら文句を言える』と面影画を心のよりどころにする人、母の遺影として絵に手を合わせるという子どもたち──さまざまな人との出会いが、私の絵に対する価値観を変えてくれた」と語る。
震災当初は東京でデザイン会社を経営していたが、面影画の本出版を契機に会社を引き継ぎ、現在はフリーのイラストレーターとして活動する。「絵には力がある。みなさんからそのことを教えてもらった」と感謝を伝える。
「震災から何年たっても、(悲しさや喪失感など)被災者の心の根底は変わらないのかもしれない。でも、新しい思い出を積み重ねていくことはできる」と黒沢さん。「またみなさんに会いたい。会ったときはぜひ、あの日からこれまでの新しい出来事を教えてもらいたいです」とメッセージを送っていた。