東日本大震災10年/絵本で三鉄沿線の復興描く 久慈市の宇部さんが出版 運行再開が住民の力に

▲ 宇部さんが出版した絵本『リアスのうみべ さんてつがゆく』

 野田村出身で久慈市宇部町在住の詩人・宇部京子さん(69)は来月で東日本大震災発生から10年を迎えるのを前に、三陸鉄道と沿線住民の被災から復興への諦めない姿を描いた絵本『リアスのうみべ さんてつがゆく』(岩崎書店)を出版した。三陸鉄道の運行再開が復興のシンボルとして住民に希望を与え、まちの再興への力となった軌跡をまとめた。

 

 平成23年3月11日の発災から5日後、宇部さんが当時の北リアス線が運行を再開したときの感動を象徴的に描写。悲嘆に暮れていた中、夜を徹して車両や線路の点検に当たる当時の社員らの様子をイメージした絵とともに「よるもねないでてんけんして、じもとのあしになるんだ!!こんなときだからこそ……はしるんだ!!そういって、いっこくもはやぐって、はしってきたんだ」と力強く伝えている。
 三陸鉄道の運行再開区間が増え、復旧が進むにつれて、津波で船を流された漁師が再び海に出て行ったり、嘆いてばかりいたおばちゃんが弁当屋を開店したりと人々を励ました様子も描かれている。
 三陸鉄道は震災後、旧JR山田線(宮古駅─釜石駅)の移管を受け、久慈市の久慈駅から大船渡市の盛駅間163㌔を結ぶ日本最長の第三セクター鉄道として、一昨年3月にリアス線が全線開通。同年秋に台風19号で再び一部が被災したが、復旧を進め、昨年3月に再び全線で運行を再開した。度重なる自然災害に見舞われながらも走り続ける三鉄から、宇部さん自身も勇気をもらってきたと振り返る。
 絵本は2年がかりで完成。絵は盛岡市在住のイラストレーター・さいとうゆきこさんが描いた。宮古市の三陸鉄道直営店「さんてつや」や各書店で税別1300円で販売。インターネット通販サイト「アマゾン」でも購入できる。既に久慈市の小学校と宮古市の保育園に寄贈した。
 宇部さんはこれまでも三鉄をテーマにした曲『走れ!三陸鉄道』『三陸鉄道(さんてつ)が行く』の作詞を手がけ、一昨年の全線開通時のセレモニーでも歌われた。
 宇部さんは「大きな災害があって普通の暮らしができず、途方に暮れていた中で、真っ先に立ち上がったのが三陸鉄道だった。震災から10年がたつが、子どもたちにも災害があったことをきちんと伝え、自分から一歩を踏み出す勇気が大切なんだと伝えたい」と願いを込める。