東日本大震災10年/復興の針路聞く 気仙両市長インタビュー
令和3年3月10日付 4面
東日本大震災の発生から、あす11日で10年の節目を迎える。津波で大きな被害を受けた気仙両市では住まいの再建やまちづくりの基盤となるインフラ整備のめどがほぼ付いた。一方で、被災者の心のケアや地方創生、震災の教訓の伝承など復興への取り組みはこれからも求められる。両市のかじ取り役を担う首長にこれまでの歩みや今後の針路などを聞いた。
被災跡地の有効活用を/大船渡市・戸田公明市長
──東日本大震災から11日で10年を迎える。市街地再生や商業施設の再建などを振り返り、満足度や達成感はどうか。
戸田 復興計画の事業数や予算的には100%近くまでいっているが、満足度といえば、そこまでではない。マイナス5点ぐらいだろうか。被災跡地の活用も、まだまだ課題を含んでいる。これもマイナス5点。100点満点でいえば、90点くらいではないか。
──10年を振り返り、いちばんの困難は。
戸田 水産業ではないか。われわれは局所的なものの見方をしているが、地球の温暖化が、大きくからんできているのでは。震災からの復興を目指す過程で、ある方から「三陸は世界の三大漁場といばっているが、そんなもんじゃない。資源は減少している」と言われ、ハッとさせられた。よく情報を集めたら、その通りだった。
平成25年から科学的・合理的管理に向けた国への要望をスタートさせ、さまざまなルートを使って訴えてきた。改正漁業法が施行され、これから漁業を成長産業化させようというところに、サケやサンマ、イカといった主力魚種の水揚げ減少を受け、加工業者が苦境を迎えている。
海水温の高温化は、養殖漁業にも影響している。磯焼けや、貧弱なウニの身入り、アワビ資源の減少なども、温暖化がからんでいるのではないか。この10年間で、問題がいろいろ出てきた。漁業者は本当に大変だと思う。水産業だけでいえば、達成感はない。
──大船渡の市街地は、商業施設の立地が落ち着きつつある。こうした中で、今になって浮上してきた課題は何か。
戸田 居住人口が少ないということが、にぎわいになりにくい面がある。車はやってくるが、もともとの足元の人口が少ないことがにぎわいづくりに欠けているのでは。少子高齢化で人口減少が進み、もちろん新型コロナウイルスの影響による面も大きい。
──今後も国や県に訴えていきたいことは。
戸田 被災跡地の有効活用という面で、国の復興交付金は終わるが、関係各省には関係する補助金があると思う。そういう補助金を発掘しながら進める過程で、復興庁には応援をしてほしい。
例えば、被災地の野菜栽培施設では、敷地の整地は復興交付金を使っているが、地上施設は農林水産省の補助金。知恵をしぼりながら、実現を後押ししてほしい。
また、大船渡市が進めた住宅再建に向けた防災集団移転促進事業での「差し込み型」は、全国で使えると思う。大規模な造成だけでなく5軒、10軒を地域に差し込む住宅再建は、工期や工事費、コミュニティー維持の観点でも優位となる。
──尊い命を失った悔しさや、犠牲者の方々が大船渡で歩んだ証しなどの伝承はどうか。
戸田 市民有志による津波伝承の取り組みがある。機会あるごとに支援をしていきたい。小中学校では、防災や震災の教育を熱心にやっている。
各種の石碑建立も、直接的な支援は難しいが、宣伝はしていきたい。市立博物館でも震災記録の保管・公開を行っているほか、震災記録誌を発行している。防災学習ネットワークも生かしながら、長く伝えていきたい。
──未曾有の被害を経験した首長として、特に訴えたい教訓や考えてほしい点は何か。
戸田 「30年以内に99%の確率で大地震が来る」という情報があった中、避難訓練を続けてきたことは生きた。それでも、津波への恐ろしさの認識は足りなかった。浸水想定区域における住宅高台移転の事前実行など、施策を進めることが大事。これまで、防潮堤や防波堤があることで良しとしていた。
遠い将来の話になるが、100年後は、今ある防潮堤は寿命を迎える。その時にどうすべきか、将来世代は、よく考えてほしい。台形型の防潮堤は、周囲の景観に調和している面はある。気になるのは、道路沿いの垂直型。背後に守るべき建物が少ない場所では、防潮堤の寿命とともに、海の景観を取り戻した方が良いのではないか。防潮堤自体が必要ないということではなく、高さも重要。「ここも必要なのか」という考え方が大切になってくると思う。
(聞き手・佐藤 壮)
残る復旧事業/防災学習に漁村センター活用
本年度の市一般会計補正予算をみると、新年度に事業を繰り越す分は約30件で、金額は24億円。この中には▽中赤崎地区道路新設・改良事業▽細浦地区内水排水対策事業▽細浦地区避難路整備事業▽産業用地整備事業▽中赤崎地区スポーツ交流ゾーン整備事業▽防災学習ネットワーク整備事業▽水産施設災害復旧事業──の約11億円分含まれる。
このうち、防災学習ネットワーク事業は、赤崎町の赤崎漁村センターを活用。震災時に多くの地域住民が避難し、力を合わせて苦難を乗り越えた足跡や教訓などを伝える場を目指し、新年度第一四半期内の整備完了を見据える。
新年度予算案には復興計画登載事業としての計上はないが、住宅再建支援やソフト事業を盛り込んだ。復興支援員事業では、複合的な課題を抱えている被災者に対し、伴走型支援を実施。エリアマネジメント推進事業では、大船渡駅周辺地区での将来にわたるにぎわいを目指したまちづくりを進める。
新年度の展開/第一中学校改築に着手
震災復興を目指した10年の中で、子どもたちの教育環境も大きく変化した。中学校の統合が進み、震災前は8校だったのが、令和3年度からは4校体制となる。未来を担う人材の育成や、子育て支援の充実も重要性を増す。
日頃市、越喜来、吉浜の統合によって、生徒数が増加した大船渡一中では、新年度から、校舎や屋内運動場の改築事業に入る。4階建て構造の新校舎建設などを進め、4年度内の完成・供用を目指す。その後、現校舎の解体、グラウンド整備などに入る。
このほか新規事業では、三陸町の甫嶺復興交流センターを中心とした「スポーツ・アクティビティ体験型交流創出・展開事業」も計上。三陸町内等の観光関連事業者で観光情報を共有・発信しながら、地域の活性化につなげる。
持続可能な地域産業を見据え、水産物加工業者による加工原魚の転換や、新規養殖の支援などへの後押しにも力を入れる。国の「2050年二酸化炭素排出実質ゼロ」の方針を受け、市全域で取り組むための実行計画策定も予定している。
交流人口の拡大目指す/陸前高田市・戸羽 太市長
──この10年を振り返り総括を。
戸羽 三陸沿岸は震災、津波のたびに悲しい思いをしてきた。今回の震災でそうした歴史に終止符を打ちたいという思いを持って取り組んできた。当初思い描いた「安全・安心」を重要視したまちはだいたい形になったと思う。
一部の復旧事業は、他事業との調整などのため、来年度に繰り越すが、ハード整備はほぼめどが付いた。復興に向けて集中して10年間取り組み、市民の皆さんの頑張りでここまで来ることができた。国内外のさまざまな人と出会い、温かな応援が大きな支えとなった。
人口減少や未利用地解消の課題を抱え、復興完遂には至っていないのが現状。一方で、これからの伸びしろ、可能性を感じられるようなところまで来た。
──今後特に力を入れたい施策は。
戸羽 創造的復興を目指し、交流・関係人口の拡大に力を入れる。
支援活動などで陸前高田をたびたび訪れ、交流する中で移住する人が多く、大変歓迎すべきこと。交流・関係人口拡大は、そうした移住・定住の入り口となる非常に重要な要素だ。防災・減災を学ぶフィールドとしてPRするなど、さまざまな切り口で陸前高田の良さを売り出していきたい。
道の駅や津波伝承館にはコロナ禍の中にあっても修学旅行生が多く訪れ、今泉地区では陸前高田発酵パークカモシーが開業した。今泉北地区では農業テーマパーク一部オープンが控え、7月には高田松原海水浴場がオープンする。
行政だけではなく、さまざまな企業、団体、個人がまいてきた復興への種が今ようやく花開いてきた。夢や希望を感じられるような可能性、伸びしろを、まちのコンセプトに合わせてしっかり形にするのが私の仕事だ。このまちの環境に適し、2次、3次展開も見込めるような企業の誘致にも取り組んでいく。
──新たな大型公共施設が続々と完成する中で、維持費に関して不安の声も聞く。今後の行財政運営のあり方は。
戸羽 確かに維持費はかかるが、整備された施設はもともと震災前あったもの。新施設を使い、地域に人を呼び込むことで生まれるメリットもある。「これだけの経済効果が出ている」などという情報を分かりやすく伝えていきたい。
市立図書館は想定を上回るほど来館がある人気施設で、昨年秋に高田松原運動公園で行われた三陸花火大会は1万人以上の人が集まった。スポーツ合宿・大会の誘致も積極的に進め、経済活性化につなげていく。
今後の行財政運営は、これまでの第1期復興・創生期間と大きく異なり、震災前に近づいていく。新年度当初の予算規模は現年度当初比72・6%減。切り詰めるべきところは徹底し、職員には本来の財政規模に戻っていくということを認識するよう指示している。
──未曾有の被害を経験した首長として、訴えたい教訓・反省点は。
戸羽 「自分の命は自分で守る」ということを肝に銘じることはすごく大事。「あのときもっと準備しておけばよかった。家族や友人など大切な人ともっと備えについて話しておけばよかっ
た」というような「後悔」を減らせるよう、対岸の火事ではなく、自分事として考えてほしい。
全国に対して犠牲となった方々を忘れないでいてほしいというのは、私自身、遺族の一人として非常に強く思う。さらに、市内では今なお202人の行方不明者がいる。暖かくなった時期にもう一度、古川沼を捜索できないか大船渡警察署にお願いしているところ。これからも不明者の家族に寄り添っていきたい。
──国や県に対する要望は。
戸羽 現場はスピード感を求めているということ。事業を進める際、本来、国が持つ許認可権を県や市に下ろすなどの仕組みができてほしい。手続きが簡素化されれば、その分、被災者が避難所や仮設住宅で辛抱する時間も減る。
土地区画整理事業は、被災地の場合はその時の状況に応じて計画変更できる制度であってほしい。一定期間、特定の事業で構わない。現場が臨機応変に対応できるよう検証してほしい。
(聞き手・高橋 信)
残る復旧事業/市立博物館は7月末完成予定
震災後進めてきた復旧・復興事業のうち、13事業が令和3年度に繰り越される。いずれも第1期復興・創生期間の本年度中の完成を目指していたが、工法の見直しや他事業との調整のため最長1年間
工期が延びる。市立博物館の完成は、約5カ月遅れの今年7月末となる。
完成が最も遅れるのは気仙川に架かる誂石(あつらいし)橋の復旧事業で、来年3月の完成となる。橋脚、橋台の下部工事を進める中で、水の浸入を防ぐ板状のくいを打ち込んだ際に地中に固い岩盤があり工法の見直しが求められた。
市立博物館の完成の遅れは、コロナ禍の影響で一時作業員が不足したことが主な理由。建材の水分などを抜く「枯らし期間」を経て開館する。高田地区の高台と主要地方道大船渡広田陸前高田線(通称・アップルロード)を山側で東西に結ぶ市道高田米崎間道路(延長約2㌔)は、道路上の支障物移転などで完成時期を3月から5月に見直した。
新年度の展開/ピーカンナッツ事業本格化へ
令和3年度、新型コロナウイルス感染症の収束を見据え、交流・関係人口の拡大に力を入れていく陸前高田市。復興五輪に位置づけられている東京五輪・パラリンピックや高田松原海水浴場の復活など、にぎわい創出の好機が控えており、産業分野ではピーカンナッツプロジェクトがさらに具体的に動き出す見通しだ。
同プロジェクト関連では、米崎町に整備する苗木育成研究施設で生産体制の確立を図る。市中心部には、ピーカンナッツの生産加工、流通販売拠点を整備する計画で、新たな特産品の魅力や食文化の発信を推進する。
国から「SDGs未来都市」に選定されており、3年度は環境に優しい低速電動バスなどの移動手段「グリーンスローモビリティ」導入に向けた検討に取り組む。
昨年、コロナ対策として実施した高齢者世帯の見守りを兼ねた配食サービス事業は利用者の好評を受け、対象者や利用者負担額など内容を精査したうえ継続する方針としている。