鐘の音に「勿忘」の誓い 津波で全壊の本称寺で 犠牲者悼み梵鐘鳴らす(動画、別写真あり)
令和3年3月13日付 6面

東日本大震災で被災し、陸前高田市高田町の高台に再建された本称寺(佐々木隆道住職)で11日、発災の時刻に合わせて「勿忘(わすれな)の鐘」が打ち鳴らされた。震災のこと、犠牲となった人々がこの地に生きたこと、世界中からの支援、すべて「忘れまい」──鐘を突いた人たちそれぞれの思いが、静かな海へと向かって響き渡った。
平成24年から毎年、同日の慰霊法要後に行われている追悼の儀式。この日は佐々木住職(57)、長男の証道さん(25)に続き、門徒らが一人ずつ鐘を突いた。人々は高く清らかな音色に耳を澄ましながら静かに手を合わせ、10年前に犠牲となった人たちを悼んだ
同寺は大津波で本堂が全壊し、先代住職である廣道さん夫妻、佐々木住職の妻の宜子さんらが犠牲となった。檀家も大半が被災し、多くの門徒が亡くなった。
境内にあった梵鐘は100㍍ほど流されたところで発見され、23年4月に掘り起こされた。支援者らに「何か必要なものはありませんか」と尋ねられた佐々木住職(当時は副住職)が、「忘れないでください、それが一番必要なものです」と答えたことから、勿忘の鐘と名付けられた。
幸い鐘に損傷は見つからず、毎年3月11日には震災前と同じ音色で鳴り渡った。本堂が再建されたのは3年前。梵鐘は海を見晴らす場所に再設置された。
同寺の山号は海詠山。佐々木住職は「まさに〝海を詠む〟にふさわしいところへ再建できた」といい、この日の鐘の音色に「まだまだ割り切れていない方もいると思いながら、それぞれの突き方を見ていた」として、心の復興には長い時を要することを感じ取った。
震災当時中学生だった証道さんは昨年、僧侶になる勉強を終えてUターンし、副住職となるべく研さんを積む。息子が地域の寺の一員としてともに役目を担うと決めてくれたことに心強さを感じながら、佐々木住職は「10年は節目ではあるが、終わりではない」と語り、証道さんとともに「勿忘」の誓いを立てる。