造船の技術 後世にも 市立博物館などが映像等で制作過程を記録 船大工・村上さん(広田町)の協力で(別写真あり)
令和3年3月25日付 7面

気仙地方では「カッコ船」や「サッパ船」などと呼ばれ、かつてはウニ・アワビ漁に欠かせない存在だった木造船。その制作技術が継承の危機にある。腐食の心配がいらず、管理が楽なFRP(繊維強化プラスチック)製が主流となり、昔ながらの船を造れる職人がほとんどいなくなった中、陸前高田市立博物館(松坂泰盛館長)などが、同市広田町の村上央さん(78)の造船技術を動画や写真で記録するなどの取り組みを進めている。
同館は国の登録有形民俗文化財である「陸前高田の漁労用具」を収蔵。東日本大震災の津波で被災したこれらの文化財2000点余りのうち大部分は、関係者による地道な修復作業によってよみがえった。広田半島とその周辺地域における近代漁業の技術・方法と、伝播の過程、変遷などが体系的にわかる貴重な資料群として、新しい博物館での展示が待たれている。
一方、こうした現物資料のほか、それらを制作する技術といった「情報」も保全し後世に伝えていく必要があるとして、同館などが構成員として名を連ねる「津波により被災した文化財の保存修復技術の構築と専門機関の連携に関するプロジェクト」は本年度、造船過程の記録等を行っている。
これに協力する村上さんは、この道60年以上の大ベテラン。船大工グループ・気仙船匠会に所属し、広田町で村上造船所を営む。若いころは町内だけで何人もの船大工がいたというが、現在、同市でカッコ船を手がける職人は村上さんだけとなった。
村上さんは、カッコ船より大型の船を造る時に設計図として描かれる「板図」や、敷板・船首部の木材を火であぶりながら、水をかけて曲げる「焼き曲げ」、くぎを使わず棚板を張り合わせる方法などを実演。現在の小型船造りでは使われなくなった貴重な技法がカメラに収められた。
FRP製が普及し、木造船は衰退の一途をたどるが、村上さんのところには震災直後、「木造でなければ」という漁師からの注文が相次いだ。そうした仕事も片付き「あとはもう、こういう船を造る機会はないだろう」と語る村上さん。後継者もいない中、「自分の技術が映像としてだけでも残ることになってよかった」という。
村上さんは「市立博物館は昔から、熱を入れて浜の道具類を展示してきた場所。カメラに〝にらまれ〟ながら造るのは大変だったが、同じ沿岸部でもよその地域にはない、陸前高田らしさを伝えられるならうれしい」と語った。
漁に使われる小型船は地域によって造り方も異なるといい、同館は「地域特有の技術が失われるのは、非常にもったいないこと。文化財は『物』と『情報』が一体となることで価値が高まる。こうした情報も収集しながら、漁労用具の上位指定も目指していきたい」としている。
造船技術を記録する取り組みは、同館が東日本大震災津波で全壊したことを受け、文化庁助成事業として発足した「津波により被災した文化財の保存修復技術の構築と専門機関の連携に関するプロジェクト」の事業の一環。同プロジェクトは、津波被害を受けた文化財を保存・修復するための「安定化処理」技術を広く継承していくことや、再生に向かう地域における博物館の役割を考えることなどを目的とする。