10年間の〝愛〟こめて SPOの吉田さん(大船渡)作曲の楽曲がきょうテレビ初公開 アレンジしたボブ氏らと共演
令和3年3月27日付 7面

大船渡市のビッグバンド・大船渡サンドパイパースオーケストラ(SPO)代表の吉田光也さん(64)=大船渡町=が作曲し、東日本大震災後から交流を続ける米国の世界的ジャズミュージシャン、ボブ・ジェームス氏がアレンジを手がけた楽曲『GIVE OUR LOVE FOR TOMORROW』が27日夜、NHK総合のテレビ番組で初公開される。収録映像では、SPOメンバーらとボブ氏が共演し、歌手の平原綾香さんが歌を担当。吉田さんは、音楽にこめた生きる希望や〝愛〟が多くの人に伝わるよう願っている。
きょうテレビ初公開

震災後に固い絆を結んだ吉田さん㊧とボブ氏が楽曲を制作(平成24年、大船渡市内で撮影)
番組名は「音楽で心をひとつに〜Music for Tomorrow〜」(午後11時〜)。震災10年に合わせた特別企画で、被災地を音楽で励まし続ける国内外のアーティストらが出演し、自然災害やコロナ禍で心のよりどころを失いかけている人たちへ「困難なときこそ、心を一つにして支え合おう」と思いを伝える。
この中で、震災後の岩手、大船渡の復興を応援し続けるボブ氏も出演。ボブ氏は出演依頼を受けた際、「今回は吉田さんの作曲でいきたい」と提案し、吉田さんがその思いに応えた。
2人は2月にリモートで曲想について語り合い、吉田さんがトランペットで作ったメロディーに、ボブ氏がハーモニーを重ねてアレンジした。ボブ氏の娘で歌手のヒラリー・ジェームスさんが歌詞をつけて曲が完成し、後日、陸前高田市や東京などで収録が行われた。
同市での演奏収録には、SPOメンバーや県内の音楽愛好者ら21人が参加。この演奏に合わせ、ボブ氏もアメリカでピアノの収録を行った。東京の収録では、復興支援で三陸にゆかりのある平原さんが熱い歌声を重ね、〝奇跡のコラボ〟が実現した。
楽曲は、ゆったりと穏やかなテンポに合わせ、優しげなメロディーと心落ち着くハーモニーが響き合う。英語で「私たちは別々の道を進んできたけど、明日のために今、一つになって愛を届けよう」といった内容の歌詞がつづられている。
吉田さんは「岩手の、さらに地方のアマチュアバンドが、ジャズ界のレジェンドと言えるボブさんとこんなにも深い絆で結ばれるなんて、普通はあり得ない。多くのものを失ったあの日から、たくさんの夢や希望をもらった」とこれまでを振り返る。
SPOは、大船渡市内外の音楽愛好者らで構成。平成23年3月の震災では、当時赤崎町永浜の海沿いにあったプレハブの練習場が津波で浸水被害を受けた。楽器や楽譜が流され、家を失ったメンバーもいたが、「前に進むための目標がほしい」と、7月から活動を再開した。
同年9月には、国内外のミュージシャンが集まる盛岡市の音楽イベント「いわてジャズ」に参加。同イベントがきっかけで出演者のボブ氏と出会い、交流が始まった。
ボブ氏は、過去2回のグラミー賞受賞歴を持ち、ジャズやフュージョン界などで活躍しているピアニスト。この年は被災地に心を寄せて作った曲『Put Your Hearts Together』(現在は『Put Our Hearts Together』)を携えて来日し、いわてジャズでSPOメンバーとの共演を果たした。
翌24年はボブ氏とSPO、同曲に日本語歌詞をつけた歌手・松田聖子さんが大船渡市のリアスホールで共演。さらに25年には、吉田さんや当時の団長、故・鈴木英彦さんらSPOの3人がアメリカへ渡り、ボブ氏とのライブ演奏を実現した。
27年には、ボブ氏が『OFUNATO』など3楽章からなるピアノ協奏曲『Concerto for Piano & Orchestra』を発表し、東京で初演。その後、この曲を元にビッグバンド用の『THE OFUNATO TEHME』を作曲し、30年のいわてジャズ大船渡、盛岡両公演でSPOメンバーら岩手のジャズ愛好者と再び音を重ねた。
SPOは、大船渡市立根町に練習場を移設後の昨年、予定していた多くの演奏行事がコロナ禍で中止に。練習環境にも制限がかかった中での今回の収録の話だったが、吉田さんらメンバーは「震災の年、福島原発事故の危険性が広まった中でも、ボブさんは大船渡まで来てくれた。そんなボブさんが、今度は世界中に希望を与えようとしている。その気持ちに応えるのが、10年の友情に応える私たちの役目では」と心を一つにした。
吉田さんは「どんなに悲しいことがあっても、生き続けていればいいことがあると教えてくれた。ボブさんや私たち、出演者みんなの〝LOVE〟が、みなさんの心に届きますように」と曲に思いを託す。